真ん中を歩く資格


 結局電車は1本遅らせるハメになったけれど、早めに登校しているおかげで遅刻することはない。だからと言ってさっきの失敗がなくなるわけでもなく。駅からひたすら自分に対して嫌悪感を抱きながら通学路を歩いていると、いつの間にか鷲のオブジェが付いた白鳥沢学園の銘板が見えていた。あそこを抜けると奥には広大な敷地が待ち構えている。
 私はこの白鳥沢学園の生徒だ。だけど正直、私はこの広い敷地も大きな建物も苦手だ。私なんかがこれだけの立派な設備で整えられた学校の生徒で本当に良いのだろうか、なんて不安がここに居ると体から湧いてしまうから。2年以上通っていても、未だに親近感を覚えることが出来ない景色をなるべく見ないように、端っこの方を目立たないようひっそりと歩く。これに関してはきちんと習慣付いているらしく、頭は自己嫌悪でいっぱいになってしまっていても体は自然と端を歩くことを選択していた。……改札でも右手を無意識に使えたら良いのに。……いつまでもうじうじしちゃうのも嫌だ。あぁもう。

 いつまでも改札での失敗に頭をうずめていると、ふいに頭を冷やすかのようにヒュウ、っと朝の冷気が私に向かって吹いてきた。下ばかり見ていた目線を咄嗟に上げてみたけれど、目の前にはいつもとなんら代わり映えのしない景色が広がっている。
 何が起こったのか確認しようと上や横、そして後ろを振り向いた時。“白鳥沢学園”と書かれた白鳥沢のスクールカラーである紫色のジャージを着て敷地外へ走っていく黒髪男子生徒の後ろ姿が視界に映った。

 あのジャージは確かバレー部の……。バレー部は白鳥沢学園の数ある部活の中でもトップクラスの成績を収める部活だ。そんな誇り高き部活の主将を務めているのが、3年生になって同じクラスになった牛島くん。恐らく今走って行ったのは牛島くんだろう。こんな早くから1人で走っているのか。
 私は学校内でも、それ以外の場所でも有名な牛島くんのことを知っているけれど、牛島くんは私のことなんて知りもしないんじゃないだろうか。たとえクラスメイトだったとしても。そう思ってしまうくらい、私の存在なんてこの学校じゃちっぽけだ。

 牛島くんはこんな端っこを走らなくても、もっとど真ん中を我が物顔で通って良いと思うけどな。牛島くんにはその資格があると、私は本気で思う。

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