5色の思い出


 訪れた先は、鈴鳴では大きめの商業施設。そこで生活用品を一通り買い、最後に求めるのは私のマグカップ。にしても、ボーダーに負担してもらえるとはいえ、買う物は必要最低限にしようと思っていたのに。まさかこんなに大荷物になるとは。鋼くんなんか両手に袋抱えてもらうことになってしまって申し訳ない。

「鋼くん、私1つ持つよ?」
「いや、大丈夫。ついでにオレたちの生活用品も買ってるし」
「ごめんね、1番荷物持ってもらってる」

 太一くんの行く先をヒヤヒヤしながら追いかける結花ちゃんと来馬さん。その後ろを見守るようにして歩いていた鋼くんに並び、詫びを入れれば「良い運動になってるよ」と微笑んでくる。荒船から人となりはなんとなく聞いていたけど、鋼くんって本当に穏やかなんだなと思う。

「なまえさん、鈴鳴での生活はどうだ?」
「快適に過ごさせていただいてます。来馬さんと鋼くんと結花ちゃんは穏やかだし、そこに入る太一くんっていうスパイスが……ね」
「ははは、スパイスか。確かにそうだな」

 2人からスパイスと例えられた太一くん。鈴鳴一行の先頭を歩いていたはずなのに、1番後ろを歩いている鋼くんに向かって「鋼さん、マグカップってどこですか?」と大声で尋ねてきた。……もしかして太一くん、先陣切って迷子になってる?

「そこの角を曲がった先に確かお店があるはずだ」
「了解っス!」

 再び駆け出す太一くん。それに「走らない!」と声を荒げる結花ちゃん。そんな2人を心配そうに見守る来馬さん。……うん、良い家族だ。それにしても鋼くん、今日ずっとお店の場所を案内してるような。この施設に詳しいのだろうかと思い訊いてみれば、自身のサイドエフェクトだという能力について教えてくれた。

「強化睡眠記憶かぁ。なんか格好良い名前だね」
「前はこの能力を好きになれないことも多かったけど、来馬先輩や荒船のおかげで自身の強みと思えるようになったんだ」
「へぇ。荒船……。明日にでも褒めてやるか」
「ははは! よろしく頼むよ」

 前までは荒船を通してでしか知らなかった鋼くん。その鋼くんとこうして一緒に住むことになって、買い物まで一緒にすることになるなんて。人生、分からないものだ。

「なまえさん! マグカップ、これなんかどうですか?」
「わ、可愛い」

 雑貨屋に辿り着くなり、待ち構えていた太一くんがマグカップを持ってくる。無事に持って来てくれたことに感動しつつ、受け取ったマグカップは緑色で、中心に“HAPPY HOME”と刻まれていた。確かに今の生活を表すならばこの言葉がぴったりだと頬を緩め棚に視線を移せば、色違いのマグカップが数種類陳列されていた。

「じゃあぼくもついでに自分の買おうかな」
「おれも! 今使ってるヤツ、時々どれが自分のか分からなくなるんですよねぇ」
「太一はプラスチックにしなさい」
「えー! なんでですか! おれもみんなとお揃いにしたいです〜」

 お揃い――。その言葉に思わずソワっとしてしまう。そしてこういう時、私は1人暮らしに寂しさを感じていたんだと再度思い知る。その今更な自覚を微笑ましく思えば、隣に居た鋼くんが「じゃあオレは黒にしようかな」と手を伸ばす。その言葉で全員がそれぞれのマグカップを手にし、レジへと向かう。

「なまえさん、マグカップ貸して」
「私の分はボーダーに領収書出さないとだから」
「これは、オレがプレゼントするよ」
「えっ?」

 鋼くんの言葉に驚けば、鋼くんは「新しい鈴鳴メンバーのお祝いとして」と微笑む。……あぁ、どうしよう。ちょっと泣きそう。

「なまえさん……?」
「あ、ううん。なんでもない。……ありがとう、鋼くん」
「えっ、じゃあおれもなまえさんに何か贈りたいです!」
「え、いいよいいよ。お気遣いなく」

 対抗するように名乗りをあげる太一くん。それに対して「こういうのは張り合うものじゃないでしょ!」といつものように結花ちゃんのツッコミが入り。それにも負けじと「隣に駄菓子屋さんありましたよね? そこ行きましょう!」と言いながら太一くんはマグカップを掲げてみせる。その持ち上げられたマグカップを心配そうに見つめる来馬さんが「分かった、分かったから。太一、そのマグカップを下ろそう」と宥めている。……事件でも起きているのだろうか。

「あはは! ありがとう、太一くん。駄菓子屋、あとで行こうね」
「はい!」

 どうにか会計を終え、それぞれが色違いのマグカップを手に入れてから訪れた駄菓子屋。いつの間にか自分用のおやつに夢中になる太一くんをみんなで笑いつつも、いつしか各々が懐かしさに夢中になり。店内を1周し終えた頃、それぞれのカゴの中はお菓子でいっぱいになっていた。
 持ち寄ったカゴの中を見て互いのチョイスにああでもないこうでもないとはしゃぎ。結局すべての会計を来馬さんが持ってくれて。帰り道で太一くんがつまみ食いした駄菓子が激辛味だったことに大騒ぎして。帰り道ですら大笑いのネタは転がっているんだと感心しながら辿り着いた鈴鳴支部。

「みんな、今日は付き合ってくれてありがとうございました」
「いえいえ。ぼくたちもみんなで出かけられて楽しかったよ」

 みんなに頭を下げれば、来馬さんが代表して言葉を返してくれる。そして続く、「おかえり、なまえちゃん」という言葉。“おかえり”という言葉は、今私が1人じゃないってことを実感する言葉だと思う。

「……ただいまです!」

 そして、それは“ただいま”も同じ。

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