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 B級ランク戦が始まってひと月が経とうとしている。それぞれがしのぎを削り合う姿を観戦しつつ、私も負けじとソロランク戦に精を出す日々。

「村上くん、今日は支部?」
「今日は非番だから本部に行くつもりだ」
「じゃあ一緒に行こう」

 ボーダー入る前って毎日どんな生活してたっけ? なんて、つい数ヶ月前までの当たり前がもう遠い日に感じてしまう。それくらい私の生活にボーダーが馴染んだことを嬉しく思っていると「俺のこと置いていかんといてや」と水上くんから後ろから追ってきた。

「将棋してたから。邪魔しちゃ悪いかと思って」
「詰将棋な。みょうじさんも興味あるなら教えたるよ」
「将棋って、戦闘に活かせそうだよね」

 水上くんが所属している生駒隊。この前生駒さんと話してみて思ったけど、隊を指揮しているのはきっと水上くんだ。ログを見る限り盤面を整えているのも水上くんだろう。この人は普段私たちとアホ話ばかりしてるけど、頭はずば抜けて良いらしい。

「シューターって、味方の援護も出来るポジションだよね」
「まぁ個人でガンガン行く人も居るけど、ウチはイコさん居るしな」

 確かに、生駒さんは策略とかあまり考えなさそうだ。それでも生駒隊はめちゃくちゃ強いし、観ていて色々と勉強になる。今度、戦術的な部分の相談に乗ってもらおうかな。

「それか将棋を習う……?」
「おっ、ほんまに興味ある?」
「あの、スコーピオンが4,000に到達したらご相談がありまして。予約は可能でしょうか」
「相談の予約てなんや斬新やな」

 そう言って笑いつつも、水上くんから快諾を得ることが出来た。色々とやれることはあるけど、ひとまずはスコピ4,000だ。

「そういえばみょうじさん、ポイントはどんな感じなんだ?」
「今3,000が見えてきたくらい」
「凄いな。ひと月半で2,000ポイントか」
「結構頑張ってるよ〜」

 村上くんの言葉にはにかめば、村上くんは花を飛ばして応えてくれた。目前の目標としているポイント到達もあと残す所1,000ポイント。そうなれば私は晴れてB級になれる。

「B級になったらどっかのチーム入るん? それともしばらくは野良?」
「チーム……」

 ボーダーに辿り着き、活動する前に一息吐こうとラウンジに移動する。そこに設置されてある自販機でジュースを買い、3人で腰掛けた所で水上くんから問われる言葉。B級になっただけではランク戦に参加することは出来ない。そうなると誰かフリーの隊員とチームアップするか、どこかの隊に加わるか。後者の場合は受け入れてもらう必要があるんだけども。

「ウチのチームに来てくれたらおもろそうやけど。もう定員オーバーやしなぁ」
「鈴鳴に入るか?」

 両サイドの言葉のうち、村上くんの言葉に対し「鈴鳴の隊服、めちゃくちゃ格好良いよね」と反応を示せば、「分かる」と水上くんの賛同を得ることが出来た。

「そ、そうか……?」
「うん! 誰がデザインしたんだろうね? 村上くんにピッタリ!」
「ありがとう」

 ポッと染まる村上くんの頬に癒されながら、脳内で自分に鈴鳴の隊服を着せてみる。……うん、やっぱあの隊服格好良いな。ちょっとあれ、実際に着てみたい気もする。

「あー! なまえじゃん! 久しぶり!」
「あっヒカリちゃん!」

 閉じていた目をパッと開けば、ヒカリちゃんが手を振りながら駆け寄って来た。そうしてテーブルに座るメンバーに挨拶をしながら「カゲたちもあとちょっとで帰って来るぞ」とはにかむ。影浦隊は日勤だったので、きっとついさっき防衛任務が終わったのだろう。

「たまにはウチの作戦室に来いよ」
「うん。今度遊びに行かせて」
「絶対だからな! つーか、なんの話してたんだ?」

 3人それぞれの顔を見て、ハテナを浮かべるヒカリちゃん。その様子に「みょうじさんが入るチームはどこが良いかって話をしてた」と村上くんが答えると、ヒカリちゃんは「なんだ」とあっさりと受け止めてみせた。

「そんなの、ウチだろ」
「えっ」
「だってなまえはウチのメンバー全員と仲良しだし」

 しれっと言ってのけるヒカリちゃん。その言葉に全員が「まぁ、確かにな」と納得している。……チームの人からそう言ってもらえるの、凄く嬉しい。ヒカリちゃんの言葉に口角を緩ませていれば、「鈴鳴に来て欲しい気持ちもあるが」と村上くんが少し残念そうに呟いた。

「鈴鳴の隊服、私も着てみたい」
「みょうじは似合わねぇだろ」
「……カゲ」

 防衛任務から戻って来たカゲが顔を覗かせるなり失礼をぶっ込んでくる。……そんなズバっと言わなくても良いじゃないか。それを言うなら影浦隊の隊服だって似合うかどうか。

「みょうじさんがウチの隊服着てるの、見てみたいかも」
「ユズルくん! 久しぶり」

 カゲと一緒に来たユズルくんに手を挙げれば、ペコっとお辞儀を返してくれる。ユズルくんにこんな風に言われるとテンション上がっちゃうな。影浦隊の隊服も格好良いし。

「なまえちゃんと一緒に戦えるの、ゾエさんも嬉しいな」
「ほんと? ゾエもそう思ってくれる?」

 集合した影浦隊メンバーから嬉しい言葉を貰い、私の口角はデロデロになっている。脳内で影浦隊の隊服を着た私を動かしまくっていれば「つーかまずおめーはランクアップが先だろ」と窘めの鼻ピンを喰らってしまった。

「……そうでした」
「行くぞ」
「はぁい」

 その場に残ったメンバーに手を振り、カゲと一緒に特訓へと向かう。その脳内では、再び影浦隊の隊服を着た自分が動き周っている。……影浦隊、入れると良いな。
ステージ選択権を携えて


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