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 ゴールデンウィーク中は当真たちとご飯を食べに行ったくらいで、特にボーダーの人と会うこともなく。みんな防衛任務や訓練で忙しいだろうと思い、私から連絡するのも控えた。
 そうして迎えた登校日。教室に着くなり水上くんや穂刈くんたちと挨拶を交わせば、いつも通りの日常が戻って来たなと実感する。カゲはいつもギリギリにしか来ないので、まだあと数十分は顔を覗かせないだろう。

「2人は? ゴールデンウィーク中もボーダー漬け?」
「隊の人と遊びにも行ったけど、それなりに」
「そっかぁ。そういえば2人って、ポジションどこなの?」
「なんやみょうじさん。ボーダーに詳しいな」

 スナイパーというポジションがあることはユズルくんに会ったので知っている。この前の話だと、みんな何かしらのポジションに就いているようだったし、目の前の2人は一体どんなポジションに就いているんだろうかとほんのりと興味が湧く。

「スナイパーをやっているぞ、オレは」
「分かる!」
「分かるって。ちなみに俺はシューター。ま、正確には“ガンナー”っていうカテゴリーやけど」
「シューター?」

 水上くんの出したシューターというワードを聞いて1番に出てくるのはサッカーのゴールを決めるシーン。それを足で真似ながらも“ガンナー”というワードが引っかかって首を傾げていると「ガンナーやから手やで」と笑い気味に訂正される。
 続く説明によってスナイパーの他にアタッカーとガンナーというポジションがあることを知り、それらの説明を食い気味に聞き入ると「みょうじさんボーダーに興味あるんや」と水上くんから意外そうな顔つきで呟かれた。

「今まで“私なんか”って思ってたけど、ちゃんと聞いてみると楽しそうだね」
「来るか? スナイプ界に」
「す、スナイパーは……ユズルくんとか天才型の人が多そうだし……」
「まあ、そうだな。確かに」
「いや自分で言うなや」

 水上くんのツッコミに笑いつつ、「カゲと村上くんはどこのポジション?」と尋ねれば「ん〜? 気になる? カゲのポジション」と口角をにんまりと上げられてしまった。……いや私今“カゲと村上くん”のことを訊いたよね? なんでカゲだけ拾うの――一瞬ムキになって言い返しそうになったけど、“なんで”の根拠は少しだけ心当たりがあるのでやめることにした。

「アイツらはどっちもアタッカーやな」
「……ぽいかも。あでも、カゲはガンナー? のイメージもあるかな」
「アレやろ。マシンガン向けてガガガガッやろ」
「あはは、そうそう! でも、意外とゾエがそういうのやってそうかも」
「みょうじさん、あるんじゃないのか? ボーダーの素質」
「えっ」

 穂刈くんの言葉に目を開けば、水上くんも「いやどんぴしゃ過ぎてビックリ」と驚いている。……え、てことはゾエやってんの? マシンガンガガガガ。あの穏やかなゾエが? ちょっと見てみたい。

「確かランク戦? するんだったよね」
「そうそう。チーム同士のバトル」
「各隊に色んなポジションの人が居るわけだよね? じゃあ連携とか相性とかあるんだ?」
「せやで。盤面を見つつサポートしたり、攻撃に転じたり。おもろいで」
「……ボーダー……」

 聞けば聞くほどボーダーに興味が惹かれてゆく。水上くんが付け加えた説明の中に、給料が支払われる仕組みも入っていた。私は今、これといってなりたい職業もないし、そこら辺は大学に入ってから考えようと思っていた。そこに出てきた“ボーダー”という選択肢。

「確かまだ募集期間やったと思うで」
「ボーダーって入るのに何が必要なの?」
「基礎的なテストと面談やったかな、確か」
「大丈夫だろう。みょうじさんなら」
「……うん! 2人とも、色々とありがとう」

 もし、私がボーダーに入りたいって言ったら。カゲは歓迎してくれるかな。ちらっと視線を後ろの席に向けても、席の主は未だに顔を見せず。もう少しで予鈴が鳴るというのに、カゲは大丈夫だろうか。今日も眠たそうな顔して入って来るんだろうなぁ。授業中、寝てたらちゃんと起こしてあげないとだ。

「そういえば、スナイパー界えらい騒ぎやったな」
「全体的に、だろう。スナイプ界というより」
「まぁ。それはそうやな」
「えっ、どうしたの?」
「実は1人、隊務規定違反でクビになってん」

 水上くんの言葉から察するに、その違反を犯した人はスナイパーらしい。だけど、穂刈くんは“ボーダー全体の騒ぎ”だと言う。それ程の騒ぎとは一体? そんな疑問を顔に出していれば、水上くんが「カゲから聞いた方がええ気もするけど」とちょっとだけ言い淀む。

「……1組におったスナイパー知ってる?」
「当真と、鳩原さん?」
「そう。居らんくなってん」
「え、当真とはこないだ遊んだばっかだし……。鳩原さん、居なくなったの?」
「せやねん。ボーダークビになって、今日学校来てみたら居らんくなってた」

 水上くんの言葉を聞いて、頭にユズルくんが浮かぶ。……ユズルくん、鳩原さんのこと凄く慕ってたけど、大丈夫かな。水上くんが“カゲから聞いた方が良い”と言ったのはきっと、ユズルくんが影浦隊だからだろう。カゲのことだから、騒ぎの中心になるようなことをしたのかもしれない。

「私、このタイミングでボーダーに入りたいなんて言って大丈夫かな?」
「そこはみょうじさんが気にするとこちゃうし、大丈夫やろ」
「でも、」
「まぁ。そこも含めてカゲと話してみたらええよ」
「……うん」

 カゲ、早く会いたい。会って、話を聞きたい。カゲと、話がしたい。
トリガーは全部君だから


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