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 カゲは“次、客として来い”と言った。その次をいつにしようと悩み続けて、今日にしよう! と思い立ったのは、ゴールデンウィークに入ってからのこと。

「ねぇねぇ〜。なんで急にお好み焼きなの〜?」
「良いじゃん、食べたくなったの!」
「そっかぁ。ま、そういう時もあるよね」

 とはいえ、連休中の稼ぎ時にお一人様で行くのも申し訳ないかと思い、ゾエに連絡を取ってみた。30分待っても返事がなかったので、きっと防衛任務中だろうと思い次に連絡をした相手が当真。当真は1コールで電話に応じ、「なまえの奢り? 行く行く」と言ってもない言葉を付け加えた二つ返事を寄越して来た。
 そうして集合場所を決め電話を切った後に、少しだけ考え柚宇ちゃんにも電話をかけた。柚宇ちゃんもちょうど空いていたらしく、「わ〜、行く行く〜」と電話の向こうではしゃいでいた。柚宇ちゃんも当真もボーダーに居たので、同じタイミングで落ち合い歩く道のり。

「お好み焼きかぁ〜。何にしよっかな〜〜」

 柚宇ちゃんが軽やかなステップで歩くのを後ろから眺め、柚宇ちゃんと当真とカゲだと誰が成績最下位なんだろう? なんて失礼な考え事をしていた時。「カゲのお好み焼き、ねぇ」と上からニヤニヤとした声が降ってきた。

「俺ともう1人女子を誘ったのには、なんかワケでもあんの?」
「べ、別に……! 柚宇ちゃんの顔が浮かんだだけで……!」
「へぇ。俺はてっきりカゲに勘違いされるかも――的な考えが浮かんだのかと」
「なっ、そっ……なっ、」

 確信めいた笑みを浮かべる当真に、思わず言葉を詰まらせてしまえば「何々〜? 恋バナってやつ? わたしも入れて〜」と柚宇ちゃんがニヤニヤと近付いて来る。……この赤点ペア、なんでこういう話には理解が早いの……! いやてか別にそういうつもりじゃないし……!

「ち、ちがっ! ほんとに美味しくて! でも1人だとテーブルもったいないかなと思って!」
「ふぅ〜ん?」

 柚宇ちゃんがいつまでもニヤニヤしているので、その頬をぷにっと摘まめば「なまえちゃんいひゃい〜」と両手を上げ観念する柚宇ちゃん。溜息を吐きながらその手を離せば、「なまえちゃんの顔が真っ赤だったからつい」と舌を出し、言い逃げするかのように走ってゆく。……柚宇ちゃん、逃げ足早いな。

「まったくもう……」
「カゲと鉢合わせしねぇと良いけど」
「だから別にそんなんじゃなくて……!」
「いやいや。これは俺の話」
「ん? 当真、カゲとなんかあったの?」

 ポツリと呟いた当真の言葉を拾えば、当真は「カゲとっつうか……ユズルとっつうか……」と言葉を濁してゆく当真。当真にしては珍しいなと不思議に思っていれば、「ユズルの師匠、俺がやるか」と閃いたように声をあげてみせる。

「……何? 当真の思考回路、私分かんない」
「ははは。天才だからな〜俺は」
「柚宇ちゃんと当真に関しては1周回ってそうなんじゃないかって思うよ。時々」

 2人に勉強を教えたことがある身としては、ある意味そうだと同意したくもなる。そういう点でいうと、カゲを教えた時も同じような感覚に陥ったっけ。カゲは村上くんや水上くんにどうにか助けてもらってるみたいだけど、この2人は大丈夫だろうか?

「確か3年A組のボーダー隊員って……今さんと鳩原さんだっけ」
「そうそう。助けてもらってる」

 今さんと鳩原さん……この2人を相手に……? 2人がどこに居るか分からないけど、空に向かって祈りを捧げれば「なんか分かんねーけど、俺も祈っとこ」と当真が手を合わせる。

「あんたたちのことだわ」
「ありゃ、そうなの? そりゃありがてぇ」
「まったく……。あ、てか。ユズルくんのこと知ってるってことは、当真もスナイパーだよね?」
「おう」
「てことは、鳩原さんとスナイパー談話とかすんの?」
「あー……まぁ、まぁ」

 またしても言葉を濁す当真に、「何」と続きを問うても「別に〜」と頭を鷲掴みされ髪をぐしゃぐしゃにされて誤魔化されてしまうだけで。その乱雑さに「もう!」と声をあげその手を払いのける。……カゲは手加減してくれるのに! とカゲの鼻ピンのがマシだと思っていれば「ねぇねぇ。お好み焼き、なんにする?」と柚宇ちゃんの呑気な声が届く。

「私この前かげうら焼き頼んだけど、すごく美味しかったよ」
「そかそか〜! じゃあ私それにしよっかな〜」
「私は今日は豚そば焼にしようかな。当真は?」
「俺は着いてから決める」

 そうして空を見上げる当真。なんか今日の当真はさっきから上の空というかなんというか。……いつもと違う。

「昨日はすげぇ雨だったな」
「あー、確かに。1日降ってたねぇ」
「あっちはどうなのかね」
「あっち? あっちってどっちよ」
「あっちはあっちだよ」

 何か私が変なことを言ったのだろうか? その問いをぶつけるよりも先に当真から頭を鷲掴みされ、再び髪の毛をぐしゃぐしゃにされてしまう。その手加減のなさに憤慨すると同時に、カゲの優しさをこういう所で思い知る。

「ほら、行くぞなまえ」
「あ、うん!」

 カゲ、今何してるのかな。つい最近まで会っていたというのに、気が付けばカゲのことを考えている……ような気がするけど、きっと気のせいだ。
誰かの涙、誰かの想い。


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