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「あ」

 短い声を発し立ち止まった私の歩み。その声につられ、数歩先を歩いていたカゲの歩みも止まる。「どうした」と近寄る声に「これ、懐かしくない?」と呼びかけ指差す先にあるのは、小さい頃よくまわしたカプセルトイ。
 この前駄菓子屋さんの前を通った時にはなかったので、きっと最近入れ替えたのだろう。懐かしさに心惹かれしゃがみこんでそれを眺めていると、途端に幼心が蘇る。財布から出した小銭を入れ、回転レバーをまわせばガラガラという音と共に1つのカプセルが姿を現した。両手で掴んでカプセルを割ってみると、中から出てきたのは星のマークをしたロケットペンダント。

「凄い、ちゃんと開くよ! なんか集めたくなっちゃうね」
「そうか?」

 興味なさそうに吐き捨てるカゲに、「カゲもまわして!」と誘ってみても「やらねぇ」と一刀両断。……でも、どうせなら全部出してみたいし。

「今日のお礼に! ね?」

 財布からもう1度小銭を取り出し、それを投入口に吸い込ませその場を譲れば、「お礼がコレって……」と言いつつもカゲが回転レバーをつまむ。カプセルのひしめく音が鳴る瞬間のドキドキは、なんだかお好み焼きをひっくり返す時に似ている。

「何が出た? って、まさかの……」
「コレしか入ってねぇだろ」
「5種類あってまさか被るとは」

 カゲの手元に来たペンダントは、まさかの私とお揃いの星型のもの。しばらく見つめ合って、「ははは!」と笑い合う。これもまぁ、特別な出来事だ。

「これ、5種類の他に1つシークレットがあるんだって」
「んだそれ」

 カプセルの中に入っていた紙には、今引いた星と他に丸、三角、四角、ダイヤのロケットペンダントが載っている。そして最後に黒いフォルムの上に?が乗せられ、“出てからのお楽しみ”と書かれている。

「シークレット、なんだと思う?」
「知らね」

 ロケットペンダントの中身は空洞になっていて、小さな写真や小物なら仕舞うことが出来そうだ。……小さな写真。財布の中から今日撮ったプリクラを取り出し、そのうちの1枚をペンダントの中に貼ってみる。……おぉ、ピッタリだ。

「ね、コレ全種類集めたら今日のメンバー分にならない?」
「ちょうど6か」
「うん! 決めた。私コレ全部集める! それで、他の人にもあげる」

 その為にはシークレットも引かないと駄目だ。でもシークレットというからには引き当てるの難しそうだな。一体何円の道のりになることやら。

「長い道のりになりそうだ……」
「ハッ。オモチャ1つに必死になるとか。みょうじはガキだな」 
「なっ! ガキじゃないし!」
「そうやってムキになんのも。ガキだな」
「はぁ〜? そんなこと言うなら今あげたやつ、返してよね」

 カゲの手に握りしめられたロケットペンダントを取り出そうと、カゲの指を掴んでみてもその掌が開くことはなく。両手で指を掴んでもカゲの手はびくともしない。……力、強すぎませんか?

「ねぇちょっと。ムキになってるガキはどっちよ?」
「そっち」
「…………、」

 ズバっと言い切られ、ふと冷静になる。そうすれば、確かに人の片手に両手で喰らい付いている私の方がムキになってるしガキだなと腑に落ちてしまった。ただ、それを素直に認めるのも癪なので「どっちもだよ!」と言い返せば「ふん」と鼻を鳴らされてしまった。

「1回渡したもんを返せって。ケチくせぇのはどっちだろうな?」
「〜っ! だって、カゲ要らないって言ったじゃん!」
「要らねぇとは言ってねぇだろ」
「えっ要るの?」
「要らねぇとは言ってねぇ」
「……それ、欲しいってことじゃん」

 ぼそっと呟いた言葉に対して鋭い視線が突き刺さってきたので、これ以上追求するのはやめにする。あまり言い過ぎると本当に突き返されそうだし。

「でも、カゲが星型持つんなら私と被っちゃうね」
「じゃあみょうじの寄越せ」
「えー? もうプリクラ貼っちゃった」
「んじゃこっちやる」
「え、それ意味なくない? ま、良いけど……」

 カゲは頑なに開こうとしなかった掌をパッと開き、中からロケットペンダントを取り出す。それを私の手に乗せ、代わりに私が持っていた方を攫いポケットに押し込むカゲ。

「ふふっ。カゲのロケットペンダント、あったかい」
「おい。変態みてぇなこと言うな」
「へ、変態って……!」

 あまりの物言いに、カゲの肩を叩いて抗議してみてもカゲは「痛くも痒くもねぇ」と意地悪に笑うだけ。あまりにも勝ち誇ったように笑うから、悔しくて悔しくて。たまにはこっちから仕掛けてやれ! とカゲの肩を下に押し、無理矢理視線を合わせる。

「はっ……?」
「喰らえ!」
「うわ……ぶねぇ、」
「あー! ちょ、なんであれを防げんの!?」
「ハッ、10年早ぇ」
「痛っ、」

 カゲが呆けた顔を見せたのは一瞬だけで、すぐに私の指の形を見てその手を一回り大きな手で握り込む。そうすれば私は成す術を失くしてしまい、結果カゲに鼻ピンを喰らうはめになってしまった。……いつか絶対仕返してやる!
ポケットの中で光り輝く


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