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「なまえちゃん、やっほ〜」
「お待たせ」

 ゾエと村上くんの待つ場所に辿り着き、全員が揃ったところで「日曜日なんだけど」とゾエが話を切り出す。……やっぱりこのメンバーで行くんだ。嫌なわけじゃないし、むしろ嬉しいんだけども。男子の遊びに女子が1人入るとなると、色んな面で気を遣わせてしまわないかが不安だ。

「女子1人入って迷惑かけないかな?」
「そんなことはないさ」

 村上くんの言葉によって少しは安心するけど、ゾエが挙げた候補地は色んなスポーツが出来るアミューズメント施設で。それを聞いて再び湧き起こる不安。ボーダー隊員と私とでスポーツをするなんて、天と地ほどの差が生まれないだろうか。

「私とチーム組む人が可哀想だな」
「んなこと気にすんな」
「そうだよ〜。遊びだし、それにカゲが手加減とかそんな気遣いするわけないじゃん」
「それもそっか!」
「おい」

 3人から“気にするな”と言われ、ようやく背中を押してもらえた気分になる。それに、ゾエの言う通りカゲは例え遊びでも全力で楽しみそうだ。そこに“私のせいで負けた”なんて気持ちをカゲは抱かないのだろう。だってきっと、そういうのを含めた上で誘ってくれたんだと思うから。

「逆にみょうじさんは大丈夫か?」
「ん?」
「オレら男だけでむさ苦しい集まりだが」
「そんなことないよ! 私が迷惑かけることのが心配」
「それは気にしないで大丈夫」
「……うん、ありがとう」

 なんとも平和な水掛け論だとおかしくなりつつ、日曜日の打ち合わせを済ませる。無意味かもしれないけど、帰ったら素振りでもするか。ゾエと別れ教室に戻る途中で腕を振り出した私に両サイドから笑いが落ちた。1人は穏やかな笑みで、もう1人は「んな気負うな。今更だろーが」という言葉付きの嘲笑。……カゲくん、今の言葉には棘がありませんか? そんな思いを込めて見上げれば「なんだよ」と不敵な笑みに変わる。……見つめ合った所でこの勝負の勝敗が変わることもない。

「私が1日で上達出来る能力でも持ってればなぁ……!」
「みょうじさんは欲しいのか?」
「え、欲しいに決まってるよ!」
「……そうか」
「ん?」

 村上くんの様子を不思議に思い、じっと見上げてみても村上くんは「なんでもない」と笑うだけ。はぐらかされたような気もするけど、カゲも何も言わないのできっと気にしなくて大丈夫なんだろう。

「そういえば、穂刈くんと水上くんは来れないんだってね」
「あぁ。防衛任務があるからな」
「じゃああの2人って同じチームなの?」

 再び耳にした“防衛任務”というワードに心を躍らせつつ、ふと疑問に思ったことを訊いてみる。その問いには「別だ」とカゲが端的に答えてくれた。ということは、3年C組に居るボーダー隊員は全員別の隊に属してるってことか。……そういえば、カゲとゾエは8回に亘るタイマンを経てカゲが隊長になったっていう結成話秘話を聞いたことがあるな。ゾエの思い出話を聞いた時は“あの影浦くんと!?”と驚きもしたけど、きっと文字通りのタイマンではないのだろう。

「うちの学年で隊長やってる人ってカゲ以外に居るの?」
「居ねぇ」
「えっじゃあ隊長になるのって結構凄いこと?」

 ぱぁっと目を輝かせれば「んな凄かねぇよ。俺ぁ誰かの下に就くのが嫌だっただけだ」と鼻を鳴らすカゲ。……カゲって褒められ慣れてないのかな? 照れ臭そうにするカゲがおかしくて、顔を覗き込もうとすればあの指の形を向けられたので慌てて顔を離す。……危ない、鼻ピンされる所だった。

「隊長になるのに条件はないけど、みんなをまとめあげないといけない」
「そっかぁ、そうだよね。みんなから“この人が良い”って言われないと隊長にはなれないんだもんね」
「そうだ。だからオレは隊長を尊敬している」

 村上くんの周りに飛んでいる花が一気に増えた気がする。きっと村上くんは自分の隊長のことが大好きなんだろうなぁ。そう考えるとゾエがカゲのこと大好きなのも納得出来るし、きっとカゲは立派な隊長なんだろうとも思う。……やっぱり良いなぁ、ボーダー。チーム単位で動くことでその隊それぞれの個性とか絆とかが生まれるんだろうな。

「そうだカゲ。来馬先輩が報告書提出しに本部に行ってたけど、お前はもう書いたか?」
「…………あー、」
「決められたものはちゃんと出せよ」
「うるせー」

 どうやらカゲは何かを忘れていたらしい。村上くんの言葉で思い出したソレは何やら面倒くさいもののようだ。「クソめんどくせぇ」と遂には口にまで出た気持ちに、村上くんと2人して笑い合う。……カゲは本当に立派な隊長をやれているのだろうか? なんて、ちょっとした不安。

「なんかよくは分かんないけど。頑張ってカゲ」
「頑張れ、カゲ」
「うるせぇ! じゃあお前らがやれ!」
「だってそれは……ねぇ?」

 ねぇ? と村上くんと目を見合わせ、首を傾げる。私1人だと無理だけど、村上くんも一緒だからカゲをからかうことだって出来る。……友達って良いものだ。

「カゲは隊長だし?」
「そうだ。隊長の義務だ」
「お前ら……!」

 カゲの肩がふるふると震え出したので、慌てて教室へと戻る。その後の授業中、心なしかチクチクとしたものが背中から刺さっていたような気もするけど。それでも、私の口角はどうしても緩んでしまうのだった。
小さな1つを積んでゆく


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