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Teach me

 昨日は出会ったばかりだし、あまり触れすぎるのも良くないと早めにユキと別れ早起きした翌朝日曜日。ジャージ姿のままサンダルを突っ掛けウメタケ家に出向けば、ユキは縁側でうずくまって爆睡中だった。子犬はたくさん寝かせてあげた方が良いらしいので、起こさないように静かにその隣に腰掛ける。
 見上げた空は快晴で、縁側に差し込む朝日も心地良い。鼻から吸い込んだ空気も澄んでいる。こんな日は散歩日和だと思うけれど、きっとユキと散歩に出る頃には冬になっているのだろう。そうなるとちょっとだけ早起き出来るか不安だけど、それ以上に楽しみの方が強いからきっと大丈夫。

 ユキと一緒に日向ぼっこをしているとウメちゃんが「ご飯、良かったら食べるかい」と声をかけてくれた。それに大きく頷き、ウメタケ夫婦とご飯を食べてテレビを一緒に観たり、バイトに出掛ける拓海くんを見送ったり、眠っているユキを眺めたりしていれば緩やかに時間は過ぎ、気付けば時計は昼時を指していた。

「そろそろ潤ちゃんとの約束の時間だ」
「どこか行くのかい?」
「うん! ユキの生活に必要なものを買いに」
「なるほど。気を付けてね」
「うん! ユキのこと、よろしくね」

 一旦自宅に戻って開けた押し入れ。こないだ買ったロングスカート、せっかくだからおろしてみたいけど、ちょっと出かけるだけだしな。荷物たくさん持つだろうし、ここは普段履いてるジーンズにしとくか。
 インディゴブルーのジーンズに合わせて上は白のレイヤードニットを選び、髪の毛はくるくるっと無造作に下の位置で団子にしてまとめる。それらを5分で済ませ次は化粧。といってもこっちも下地とファンデを塗ってリップをさっと引いて終わり。トータル15分で準備を済ませ、隣の部屋をノックすれば潤ちゃんも準備を終えていたようで「よし、行こっか!」と車のキーをちらつかせてきた。

 潤ちゃんはいつでもバッチリ決まってて、大人の女性って感じだなぁ。同じ社会人として尊敬する。犬を飼うならお金も必要になるだろうからって“ユキ貯金”を発案してくれたのも潤ちゃんだったし。正直独り暮らし独身女の財力で犬を飼うのはちょっと苦しい部分もあったので、潤ちゃんの言葉はとてもありがたいものだった。
 そのユキ貯金に二つ返事で賛成してくれた拓海くんにも感謝しかない。私も、もっと頑張って働かないとだ。



 向かった先は大きめのホームセンター。ここならエサもシーツも何もかも揃うだろう。潤ちゃんにはエサやらシーツやらをお願いして、私は移動用のクレートと家用のケージを探すことにした。

「たくさんあるなぁ……」

 移動用も、家用も。たくさん種類があって一体どれがユキに合うのかが分からない。ケージはいわばユキの家だし、快適に過ごせるものを買ってあげたい。それにしても何せ犬を飼うことが初めてだから、分からないことだらけだ。昨日から今日にかけて私のスマホの検索欄は“子犬”とつくものだらけ。その検索欄に新たに“子犬 ケージ おすすめ”と打ち込みスマホと睨めっこを開始する。

「なるほど……サークルタイプもありかぁ、」
「こんにちは」
「……あ! 昼神先生!」

 しゃがんだ状態で見上げると余計大きく見える昼神先生。慌てて立ち上がってもあまり埋まらない身長差を補うように顔を上向かせれば、「お迎えの準備?」と尋ねられた。

「です。なんか初めてのことばかりで迷っちゃって」
「そうですよね。家族が増えるって大変ですよね」
「でも、楽しいです」
「そっか。それなら良かった。ケージ、何にするか決まりました?」
「あ! そうだ、丁度良かった……って、このまま訊いても大丈夫ですか?」

 昼神先生は私服だし、今はきっとオフだ。ここはホームセンターだし、もしかしたらご家族と来てるのかも……と不安に駆られれば「どうぞ。俺も実家に顔出したら“これ買ってきて”ってコキ使われてる最中だから。ちょっとサボリたい」と買い物袋を見せながら昼神先生が笑う。

 サボリたいって、男子高校生みたいなこと言うんだなぁ。それがおかしくてつい吹きだせば「あ、サボってたことは内緒だよ〜?」と親指を口に当てるから今度は声をあげて笑ってしまった。誰に黙っていればいんですか、教えてください昼神先生。

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