見抜かれることを望んでいる

 そんな関係にもなってない――天啓にうたれたような衝撃だった。勝手にキスをして、勝手に気持ちを通わせていた。なまえの放った言葉が全て的を射ていて、“そうか。両思いではないのか”と宮侑は今更認識を改めた。

「そんな関係にも、なぁ」

 改めた所で、なまえの言葉を反芻させてみる。なまえは自分の前では本心を剥き出しにする。そのことに優越感を抱くようになったのはつい最近のこと。それが踏み込んだ行為ではあるが、行き過ぎたものではないことも分かっている。……逆に、踏み込めてすらないともいえるのではないか。何せ“にも”なのだから。

「なら、そうなればええってことやんな?」

 腹を決め、足を踏み出す。その先に待っているのはきっと自分の望む未来だと、宮侑は信じ疑わなかった。



「はぁ!? お前、いつからなまえさんとそないな関係になってたん!?」
「つい最近です」
「いやっ、だ、ってお前……なまえさんから嫌われてたやん」

 向かった先に居たのは宮侑のチームメイトたち。選手を集め高らかに宣言した言葉に、チームキャプテンである明暗が代表するかのようにツッコミを入れてきた。そのツッコミに読み通りだと愉快さを覚えつつ、「嫌いは好きと同意義ですし」とどや顔を決めればチームメイトの表情は一様に冷えていった。集められた輪の端に居る佐久早などは汚物を見るような表情をしている。

「フラれた場合、俺らはどんな顔すればええんや」
「そんなんは考えんでええです。フラれんし」
「……お前のその自信はどっから来んねん」
「ふっふっふっ。まぁ、キスはしてますし」
「はぁ〜!? ちょお待て。キスて、あれか? マウスとマウスの?」
「まうすトゥまうす、です」

 怒涛の情報開示を見せつければ、チームメイトたちの顔に動揺が走る。そして矢継ぎ早に選手たちから疑問をぶつけられ随分と手荒い取材を終えた時、宮侑の体は床に正座という体勢を取らされていた。そうして投げつけられる言葉たちは「人でなし野郎」や「マナー違反クズ」など随分と棘のあるもので、さすがの宮侑も心にへこみが見えた程だった。

「ツムツム、さすがに許可なしにチューすんのは駄目だって俺でも分かるぞ」
「木っくんに言われんのが1番こたえるわ」
「侑さん、謝りましょう……? あれだったら俺も一緒に謝りますので……」
「日向くん……嬉しい気遣いありがとうな……そんで臣臣はそろそろその目やめてくれへん?」

 最終的にはどうにかチームメイトの応援も得ることが出来、後は取材当日を待つだけとなった。目を閉じればなまえの嬉しそうに笑う顔をイメージすることが出来る。大丈夫、絶対大丈夫だと自分に言い聞かせながらゆっくりと立ち上がる。

「……なまえちゃん、メシ行ったらどないしよ」

 なまえは俺がバレーを愛していることを見抜いてくれた。だからきっと大丈夫だ、と揺らぐはずのなかった自信が少しだけ小さくなったのを実感しつつも、心の中で己に励ましを施す。
 
 大丈夫。バレーと同じくらいの気持ちをなまえに向けていることを、なまえならきっと見抜いてくれるだろう。宮侑はそう信じ、疑うことをやめた。




top


- ナノ -