paparazzi

 翌日。いつも通りの時間に体育館へと出向くと、木兎選手がソワッとした表情を浮かべながら近づいて来た。

「みょうじなまえサァン」
「えっ、なっなんですか? 何か良い番外編でもありましたか?」
「番外編! そうだ、なまえちゃん俺の番外編どうなった?」
「それなら――「あほ! 話脱線させんなっ!」

 木兎選手の会話に聞き耳を立てていたのか、話題が逸れそうになったことに犬鳴選手が囁くような声で叱責する。その声を不思議に思ってよく周りを見てみれば、数人の選手の耳が大きくなっているのが分かった。……一体、何事だろうか。

「ずばり訊きます! 昨日の男性は誰ですか!」
「きのう……? 男性……?」

 問われた内容をぶつ切りにして頭で整理する。昨日は父親と久々に会って、ご飯を食べて、佐俣選手も同席……佐俣選手。もしかして――。

「佐俣選手と一緒だった所、見たんですか?」
「やっぱり佐俣選手だ! 俺ファン! 格好良いよな!」
「ですね。佐俣選手とは昔からの付き合いで。昨日はご飯を一緒に食べたんです」
「えー! ずるいなまえちゃん、俺も食べたかった!」

 木兎選手の駄々に苦笑を浮かべていると、代打として明暗選手から背中を押された日向選手が飛び出してきた。そして少し頬を染めながら続く「それって、デ、デートってやつですか!」という質問には思わず咽てしまった。……こういうことってズバっと訊いた方が意外と本当のこと訊き出せるんだよな。日向選手、意外とやり手だな。

「なっ、デッ……なっ、違っ」
「えっ、マジ?」
「違います! ほんとに違うくて……!」

 あの食事会には父親も居たし、本当にデートなんかじゃない。あまりにもストレート過ぎて慌ててしまっただけだ。そりゃ佐俣選手は格好良いし、優しいし、物腰柔らかいし……好印象だけども。断じてそんな気持ちは――。……そりゃ、断じは出来ないけれども……。

「それだと肯定してるようなもんだろ」
「〜っ、臣臣っ!」
「その呼び方で呼ぶんじゃねぇ」

 佐久早選手があらぬ断定をしたせいで、周囲の選手から野太い声があがる。今は担当じゃないし、佐俣選手にそういう……好意を抱くことはタブーではないと思う。でも。この気持ちはそこまで大きいものじゃないし、どっちかっていうと憧れや尊敬に近いように思える。

「でも。ご飯行ったってことは佐俣選手にはそういう気持ちがあるってことじゃねぇの?」
「食事くらいは誰とでも行くと思いますけど……」
「えー。でも女の子と2人って、気持ちがあるからじゃん?」
「ん? 昨日は私と佐俣選手と私の父の3人でしたよ?」
「なまえちゃんのお父さん? でも、俺が見た時はなまえちゃんと佐俣選手の2人だったよ?」
「私の父もフリーのジャーナリストで、佐俣選手に取材することがあるんです。それと、私も月刊ヤキューの担当だった時に佐俣選手には良くしてもらってたのでその兼ね合いで。多分、木兎選手は父がお店に携帯を忘れて取りに戻ってる間を見たのかもです」
「なるほど。……じゃあ違う、のか?」

 説明をすることでどうにか野太い声の中にあった黄色さがなくなる。そのことにホッとするのと、「でもさっきの反応だとみょうじサンに気持ちがあるのは確かだよね」という佐久早選手の言葉によって野太い声が再び黄色に染まるのは同時。……今度の取材を覚えていやがれ臣臣め。

「なぁ、皆さん。練習、せえへんの?」

 どう収集を付ければいいのだと慌てふためていると、宮選手の声が渡りに船となってくれた。それのおかげで私に集まっていた視線がバレーへと向き、ようやく胸を撫でおろす。
 宮選手にお礼を――と思って宮選手を見つめてみても、宮選手の目線もバレーへと向かっていてそれは叶わなかった。……おかしい、いつもなら目線を無理矢理合わせてドヤ顔を決めてくるのに。今日はいつもより練習にのめり込んでいる様子。それに苛立っているようにも見えるし。……もしかして、宮選手のコンディション、今シーズン1悪い?




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