ちょっと嫌い

 “今日の宮選手”を休んだ代わりに、“番外編、今日の木兎選手”をアップすればこちらもたちまち大反響を呼んだ。そのことに胸を撫でおろしながら、木兎選手からの“明日も俺で良くない!?”というLINEに“考えてみます”と返した時、柄長先輩からの着信が表示された。ふぅっと息を吐き、覚悟を決めて指をスライドさせる。

「はい、みょうじです」
「何かあった?」
「……実は、宮選手に高校時代のこと話しました」
「そっか。それで、大喧嘩でもしちゃった?」
「大喧嘩、というか……その、まぁ……色々あったんですけど、そのこと自体には素直に謝罪を受けました」
「そうなんだ。じゃあこれからは宮選手にも普通に接することが出来……ないから更新休んだんだよね」
「……すみません」
「良いの良いの。仕事に誇りを持ってたとしても、やってる私たちは人間だし。複雑な感情とか事情とか絡んじゃうよね」

 もっと怒られることを覚悟していた。選手と色々あっただなんて知られたら問答無用で私が怒られるもんだとばかり。だけど、柄長先輩はこうして私側の事情も汲み取ろうとしてくれる。そのことが堪らなくて、目がうるっとしてしまう。「柄長先輩ぃ〜……」と縋れば、電話の向こうで「今度帰って来たら飲みに行こう」と励ましの声が届けられる。

「でも。なまえちゃんは社会人で、大人でプロだから。もう少しだけ自分の力でどうにか出来ないか模索はすること」
「……はい」
「それでもどうしようもないって時は連絡ちょうだい。私も一緒にどうにかするから」
「ありがとうございます……!」

 プロだから。プロとして。この仕事に誇りを持っているから。――この気持ちに整理を付けないと。これからも、この仕事に誇りを持っていたいから。



「宮選手。少しお話よろしいでしょうか」
「うん、ええよ」

 休憩中。宮選手を呼んだことに周囲に居たメンバーが目を見開いた。今まで宮選手が私に声をかけることはあれど、私からかけることはほぼ皆無だったから。それでも、特に何かを言うでもなく送り出してくれたメンバーに感謝しながら2人でロビーのソファーに腰掛ける。

「私は、これからも宮選手に対する態度は変えません」
「おん」
「ずっと、許せなかった。今でも私のプライドを傷付けられたって思ってる」
「うん」
「だから、間違ってない」
「なまえちゃんは何も間違ってへんよ」
「……でも、ちょっとだけ見方を変える」
「うん?」
「本当に“良い”って思った所があったら。“記事にしたい”って思ったら。その時は記事にしようと思ってます」
「ほんま? 俺のこともなまえちゃんの腕で格好良ぉしてくれるん?」

 目を見開いて嬉しそうに私を見つめてくる宮選手。その頬には未だにバンドエイドが貼られているけれど、本人は気にしてなさそうだ。
 思い切り嫌な態度を出してきたのに。ビンタ張ったのに。それを謝ることもせず、今も私の考えを押し付けているのに。宮選手はそれら全てに怒りを見せたことはない。
 人でなしだと決めつけて生きてきたけれど、ちゃんと関わってみたらそうじゃない部分だって宮侑はたくさん持っている。

「そやけど、格好悪い所を率先して探すで」
「んなあほな! いい加減格好良ぇとこ撮ってくれてもええやん!」
「そうや。“今日の宮選手”はその口のバンドエイドでもええ?」
「絶対あかん! ファンにはこないダサい所見せられへん!」
「ふふっ。宮選手は意外と見た目気にしいやもんな」
「当たり前やん! コンビニ行くのでさえ1人ファッションショーや」
「うわダサ」
「なっ!?」

 どうしようと悩んでいたけれど。本人とちゃんと話してみれば、意外となんとかなった。今でも宮選手のことは嫌い。……でも、他の選手に比べて“ちょっとだけ嫌い”になった。これが今の私の宮侑に対しての気持ち。




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