恋愛相談はするだけ無駄……?

 澤村ブラザーズの暗黙のルールはいくつかある。そのうちの1つに“大地お兄ちゃんへの恋愛相談はするだけ無駄”という今まで1度も揺らいだことのないルールがある。というか相談以前の話だ。そのことは私も身を持って経験していることなので、異議を唱えるつもりはない。……そして、そのルールを不動のものにする日が今年もやって来た。

「なまえは大晦日も会いたがるよな。どうせ明日家族ぐるみで新年会するのに」
「……大地の誕生日だからに決まってるじゃん」
「あぁ。毎年ありがとな」

 はい、来た。普通ここでまんまの言葉で受け取りますか? ちょっとは裏を読みなさいっての――なんて文句はこのルールの前ではなんの効力も発揮しない。これが澤村大地という男なのだ。
 大地はきっと、これが“毎年恒例だから”としか思っていない。“どうしてこれが毎年恒例になっているのか”なんて、そこに疑問は持たないのが大地が大地たる所以。

「あれ……なまえ、俺の携帯知らないか?」
「部屋に置きっぱなんじゃない?」
「……あ、そうだ。机に置いてきた」
「まったく……なんの為の携帯なんだ――だっけ?」
「あれは外の場合だろ」

 唇を尖らせながら自室へと戻ってゆく大地。その背中を見つめ溜息を漏らせば「無理無理。大地兄ちゃんに恋愛関係のこと、期待するだけ無駄だよ」と妹ちゃんからため息を吐かれた。……ですよね。
 同意を込めて苦笑いを返しつつ、心の中で気を持ち直す。……ルールはルールだけど、今年はいつもより特別な年。……厳密にいえば来年だけど。恋愛うんぬんを抜きにしても絶対に会いたかった。



「春高、緊張してるでしょ?」
「……っ、」
「きっと柄にもなく嫌な夢見たり、変に力んだりするんだよ」
「……やめろ、明日は初夢だぞ」
「あはは! 大地がビビってる! 珍しい」
「お前なぁ、」
「……でも大丈夫だよ」
「……ん?」

 明日、大地は午前中にバレー部のみんなと初詣に行くらしい。そこできっと願掛けをするのだろう。おみくじだって引くかもしれない。その結果があまり良いものでなかったとしても。――そんなのを吹き飛ばせるくらいの気持ちを、私は持っている。

「私たち……私の、応援があるから」
「……っ!」

 力強く告げれば、大地の頬が少しだけ朱に染まる。……ちょっとは格好良いって思ってくれただろうか。

「ものすっごい気持ちこめて応援するから」
「……ありがとう。心強いよ」

 大地が何かに挑む時、羽ばたく時。私はその背中を力一杯押す。それが私の暗黙のルール。

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