「ねぇちょっとなまえ! ココ違う! エラーなんてしてないんだけど!」

 うるさい。朝からうるさい。

「鳴くんってホントうるさい」
「なっ!? エース様に向かってなんだと!」

 うるさいという感情が思わず口から出てしまい、更にうるさくなる鳴くん。あぁ、本当に、本当に、うるさい。今度は感情を表に出さない代わりに溜め息を一つ吐いてガマンする。

 それでも尚も「早く! 訂正して!」だの「なまえってそれでも本当にマネージャー?」だの喚いているので、反応しないに越したことはないと思っていたのだけれど、仕方なく対応する事にする。……鳴くんに掴まると仕事が進まないんだよなぁ。

「でも雅さんからは突っ込まれなかったよ?」
「へぇ? 俺より雅さんなんだ? 良い度胸」
「……雅さーん! 鳴くんがめんどいです!」

 私たち2年生の先輩であり、鳴くんの女房役でもある雅さんの名前を出しても鳴くんは食い下がってくる。……というか、より一層青筋を立てて喚きだしてしまった。……うるさい、というより、面倒くさい。我が儘なエース様だ。

「またかよ……。いい加減にしろ」

 そんな鳴くんに手を焼いていると後ろから救いの声が聞こえて、振り返る。

「雅さん!」

 溜め息を吐きつつも、間に入ってくれるなんて、雅さんはやっぱりゴリラ……頼れる先輩だ!

「鳴くんが私がつけたスコアブックにケチつけてきます!」
「だってなまえが間違ってるからじゃん!」
「はぁ? だから、雅さんに見せた時は何にも言われなかったって言ってるでしょ? ねぇ、雅さん?」
「だって、雅さんは自分のスコアしか見てないでしょ!」
「そんな事無いって! 雅さんはキャプテンとして、全員のスコアを把握してるんだから! 雅さんを見くびらないで!」
「なまえは雅さんの何を知ってるってワケ!?」
「んもうっ! 雅さん!」
「こら! 鳴! みょうじ! 子供じゃねぇんだぞ!」

 雅さんの後ろに隠れながら鳴くんとやり取りをしていたけど、限界が来てしまった雅さんに2人して怒鳴られてしまう。

「朝からそんなどうでも良い様な事で騒ぐな! さっさと練習するぞ!」

 雅さんから怒られたじゃないか、鳴くんのせいで。そんな気持ちをこめつつ、鳴くんの方を見ても「だって俺悪くないもーん」なんてやけに可愛らしい顔で唇を尖らせている。

「鳴っ!」
「わ、雅さんが怒った〜!」

 そんな鳴くんに怒った雅さんがもう1度鳴くんを怒鳴りつけると今度こそブルペンへと走って(逃げて)行く鳴くん。ふん、いい気味だ。

「みょうじも早く仕事しろ」
「はぁい」

 私も注意を受けつつ、仕事に戻る。

「雅さん、また何かあったら助けを呼びますね。その時は今みたいに駆けつけて下さいね!」
「バカか。自分で対処しろ」

 雅さんはそう言ってブルペンへと向かうけど、そんな事言いながらもいっつも助けてくれる事、知ってますよ。なんて。後姿を見送りつつ、思わずニヤけてしまうのだ。
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