アフター
ハッピー・エンド

「おう! 我愛羅! お前ちょっち老けたか?」
「そういうお前こそ。顔にクマが出来ている。ちゃんと寝れているのか?」
「ちょっち子育てが大変だけどよ……てか、我愛羅には言われたくねぇってばよ」
「……ふっ」

 我愛羅さんがこんなに相好を崩すのは初めてのことだ。里のみんなから祝福を受けた時も、カンクロウ兄さんから茶化された時も、クールな表情を崩さなかったというのに。2人のやり取りを見つめ頬を緩ませていると、ナルトさんの目線が私へと移った。

「なまえちゃん。幸せそうだな」
「はい! すごく、すごく幸せです」
「へへっ。“誰かを愛する”って気持ち、分かったみてぇだな」
「……はい! あ、そうだ。ナルトさん、お金ありがとうございました」
「ん? あぁ、どういたしまして!」
「長い間ありがとうございました。無金利だったおかげで無事に返すことが出来ました」
「へへっ。3禁は大事だからな」

 私のことも2人は受け入れてくれるから。やっぱり私は幸せ者だ。



「いのさん!」
「あら、なまえちゃん! 木の葉にも号外来たわよ! 結婚おめでとう!」

 いのさんのもとを訪ねれば、サイさんと夫婦揃っての出迎えを受けた。サイさんは目を細めながら「ゲスチン野郎より断然マシだね」と冗談ともとれない口調で言うから、それには苦笑を返す。

「ゲスチン野郎とは……」
「なんでもないですよ我愛羅さん。それより、いのさんとサイさんにお願いがありまして」
「えっなぁに? 私に出来ることなら何でもするわよ!」
「結婚式のブーケと、ウェルカムボードをお願いできないでしょうか?」
「えっ! いいの!? そんな大役を私たちに任せても」
「はい。我愛羅さんと2人で話し合って決めたので」

 我愛羅さんと見つめ合って、もう1度いのさんに視線を移せば「任せて! よぉし、張り切るわよーっ!」となんとも頼もしい返事をもらうことが出来た。これは素敵な花束が出来そうだ。



「我愛羅くん! 風影の君が珍しいですね」
「今日は挨拶にな」
「挨拶? そんな遠路はるばるボクに会いに来てくれるだなんて! いやぁ、嬉しいなあ」
「……いや」
「ふふっ。リーさんは変わらずお元気そうでなによりです」
「えぇ! 今日もこれから里の中を800周する予定です!」
「あ、じゃあその前に。……リーさん、私たち結婚することになりました」
「……えっ! け、ケッコン!? 我愛羅くんとなまえさんがですか!?」
「えぇ。一応他里にも連絡は入れたんですが……」

 全然知りませんでした……! と目を見開き「忍としてあるまじき出遅れ……」と自分を律するリーさんが「お詫びとして1,000周にします……!」と勝手に200周追加したので、思わず苦笑してしまう。「あれは自分ルールだから止めても無駄だってばよ」というナルトさんの言葉に従っておこうと決めた時、「リー! 他人様のメイワクだから止めなさい!」とテンテンさんの怒号が飛んできた。

「テンテンさん!」
「あ! なまえちゃん! 結婚おめでとう!」
「ありがとうございます。あの、無理言ってかき氷機仕入れて頂いてありがとうございました。それにシロップまで」
「ふふっ。最近では忍具以外の商品を仕入れるのもアリかも――って思ってるんだ」
「そうなんですね。……あ、でも今回は忍具の注文をしたいんですが、いいですか?」
「えっ、そうなの? 是非是非! ささ、お店に入ってゆっくりと話を聞かせて下さい!」
「ありがとうございます。実は引き出物として――」

 お店の外からは「テンテン、ボクも仲間に入れて下さぁい」とリーさんの寂しそうな声が響いていた。



「なまえと我愛羅がねぇ。思ったよりは早かったじゃないか」
「えっ、」

 前回は来られなかった奈良家。通された和室で言われるテマリさんの言葉に息を呑む。“思ったより”という言葉はいつかはこうなることを予測していたという表現と同じだ。

「なんだい、不思議そうな顔して。なまえと我愛羅なんてみんなが想像出来ただろう」
「そ、そうなんですか……。そう、なんですね……」

 隣に腰掛けるシカマルさんに「なぁ?」とテマリさんが同意を求めれば「あー、まぁ。オレは2人が揃ってんの見るの初めてだからアレだけどよ、まぁ、普通に、な」と面倒くさそうに返事をするシカマルさん。そんな旦那さんを肘で小突きながら、「なまえ、我愛羅のことよろしく頼むよ」と言われると返事に詰まる。
 私、テマリさんみたいに家庭を支えることちゃんと出来るかな……。そういう不安を渦巻かせていると、我愛羅さんから名前を呼ばれじっと見つめ合う。

「大丈夫だ」
「我愛羅さん、」

 そうだ。私たちは支え合っていけばいい。それが私と我愛羅さんの繋がり方。

「おアツイいねぇ」
「……アンタにもこれくらいの気概はないのか」
「……めんどくせぇ」

 奈良夫婦の関係性もすごく好きだなと微笑ましく眺めていれば、玄関先から「我愛羅ー!」と大きな声が弾みながら響いてきた。

「ナルト、餓鬼じゃねんだし。んな大声出すなバカ」
「へへっ悪ぃ悪ぃ。我愛羅となまえちゃん迎えに来たってばよ」
「え?」

 ナルトさんの言葉に首を傾げてみせれば、「いいから! 早く!」と急かされあっという間に連れ去られる私と我愛羅さん。……ナルトさんはいつだって世界の中心だ。



「我愛羅となまえちゃんの結婚を祝して! カンパーイ!」

 連れられた先はナルトさんの家。そこで待っていたヒナタさんから「ナルトくん、ずっと楽しみにしてて」とフォローをされたナルトさんは「ちょっ、ヒナタ!」と頬を染めている。

「……ナルト、すまないがオレたちは六代目への挨拶に行かねばならん」
「カカシ先生のとこは明日でいってばよ」
「……だが」
「我愛羅。今の六代目はカカシ先生だぞ?」
「……それもそうだな。今夜はもう遅い。日を改めるとしよう」
「そうこなくっちゃ! 我愛羅の好きな砂肝と牛タンも用意したってばよ!」
「ありがとう」

 カカシさんの扱いには少し同情する部分もあるけれど、それを良しとしてみせるカカシさんの懐の広さは私ももう知っている。1番に挨拶に行かなかったからといって、怒るような人ではない。






「ナルトくんのせいで疲れたんじゃないですか?」
「あぁいえ。おかげで楽しく過ごせています。この前も、今も」
「……それならよかった」

 食事を終え、会話のツマミを酒へと変えた我愛羅さんとナルトさんを見つめながら洗い物をヒナタさんと一緒にこなす。ヒナタさんはやっぱり柔らかい雰囲気を纏っていて、ナルトさんのことをこうして受け止めてみせる。……良い夫婦だなぁ。

「木の葉は砂隠れと流れる空気が似ていて落ち着きます」
「なまえさんは砂隠れの里がお好きなんですね」
「はい。自慢出来る里です……なんて、私なんかが言えた立場じゃないんですが」
「……いえ。なまえさんは風影様の奥様になるお方です。影の妻が自里を誇れるのは立派なことだと思います」

 ヒナタさんはこう言ってくれるけれど、私にとってなりたい妻はヒナタさんのような人だ。

「私、ヒナタさんみたいに立派な妻になれるでしょうか」
「わ、私が立派かはアレですけど……。なまえさんならきっと大丈夫です。それにもし不安なことがあったら、私に相談して下さい」
「いいんですか?」
「勿論。私たち、友達ですから」
「ともだち……」
「あっ、勝手にごめんなさい……」
「……いえ。嬉しいです」
「その代わり……私が“火影の妻”になった時は色々相談してもいいですか?」
「もちろん! 友達ですから」

 大切な繋がりは、こうして増えてゆく。



「火影への面通しが遅れてすまない」
「いやいや。俺そういう格式ばったの要らない質だから。1番に報告したい人にしてよ」
「……すまない」

 翌朝訪れた火影執務室で再会したカカシさんは、そういってにこやかに微笑んでくれた。……やっぱり、カカシさんは想像通りのおおらかさだ。

「なまえさん、いい顔してるね」
「ありがとうございます」

 カカシさんの言葉に堂々と頷きを返せば、カカシさんの顔も柔らかく緩む。

「ま。砂の里が嫌になったらいつでも木の葉においで」
「今の所その予定はなさそうですが、お気持ちはありがたく頂戴します」
「砂の里暑いし、逃げたくなる日もあるかもよ?」

 冗談を重ねるカカシさんに笑いながら「ふふっ。私、氷遁使いなので。あの里にピッタリな人間だと思いませんか?」と躱せば、「それもそうだね」と追撃の手を止めてくれた。

「ま。木の葉はいつでもなまえさんの味方ってことで」
「カカシ」
「おっと、これはこれは。風影様」
「オレの妻を誘い込むのはやめてくれ」

 まさか我愛羅さんから攻撃を受けるとは思ってなくて。思わず頬を染める私を満足そうに眺めた後「ご安心を。今フラれましたので」とにやけるカカシさん。我愛羅さんが真顔で言うのがまた質が悪い。

「木の葉は居心地が良いからな。気は抜けん」
「じゃあ我愛羅となまえさん、2人とも木の葉に住んじゃえば?」

 突飛な提案に思わず「ふふ」と笑い声を漏らせば「……なまえ」と窘める声が届けられた。

「我愛羅さん、私が他里にふらつくなんて絶対に有り得ません。我愛羅さんの、風影様の妻になるんですから」
「……それは、そう、だが」
「砂隠れの長でもある我愛羅さんの傍が1番居心地の良い場所です」
「なまえ……」
「ねぇ。オレが溶けそうなんですが」

 カカシさんの言葉にハッとして、今度は2人して頬を染める。危うく2人の世界に入る所だった。今は影同士の挨拶なんだし、一応きちんとしないと。 

「ま。今更里の交友悪くしたくないし、撤回します」
「カカシさん」
「ん?」
「これからも砂の里を、我愛羅さんのことを、よろしくお願いします」
「……我愛羅、良い奥さんを貰ったな」
「あぁ」

 我愛羅さんから向けられる視線は、溶けそうで融けない心地の良いぬくもりを感じる。この人から渡される心を受け入れたいと、心からそう思う。我愛羅さんはそんな私の心を受け入れてくれている。

 愛ってきっと、こういうことをいうのだろう。
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