無金利ローンで
差し上げます

 カカシさんへの挨拶も無事に終え、ナルトさんと共に里の散策を再開させる。カンクロウさんや我愛羅さんが言っていた通り木の葉の里は緑溢れ建物も近代的で、最先端がどういうものなのかを教えてくれるようだ。

「……本当にすごいですね」
「カカシ先生が火影になって、ものすごい勢いで発展したからな」
「なるほど。……こんなに栄えた場所は初めてなので、目移りしちゃいます」

 目線が移る場所全てに興味をそそるものがあって、目が周りそうな勢いだと伝えればナルトさんが「観光、1日じゃ終わんねぇかもな」とはにかむ。そう言われると本気でそんな気がしだして、体がソワソワと落ち着かなくなる。……バキさん、こんな気持ちだったんだ。

「んじゃまずは「あー! ナルト!」……うわぁ」

 甲高い声がナルトさんの名前を呼び、ナルトさんはその声に思いっきり眉を寄せ。「ややこしくなんねぇといいけど……」とごちるナルトさんを他所に「ちょっと! 隣の美人さんは誰よ!? 任務? 護衛?」と質問を重ね続ける女性。手に数本の花を携える女性の右目は金色の前髪で覆われているけれど、左目でナルトさん鋭く見つめている。

「砂の里から参りました、みょうじなまえと申します。今日はナルトさんに木の葉の里を案内して頂いておりまして」
「へぇ! なまえちゃん。綺麗な名前ね。私は山中いのっていいます。すぐそこの花屋で働いてるの」

 いのさんが指さす先では“やまなか花”と掲げられた看板と色とりどりの花が店先を飾っている。「是非ご贔屓に」と微笑む顔は花が一輪咲いたような華やかさだ。

「……あ、そうだ。せっかくだし、何かプレゼントするわ」
「え?」
「お近づきの印に。さ、こっち来て!」

 手を引かれ駆け出せば後ろから「いののペースは恐ろしいってばよ……」と溜息を吐くナルトさんの声。正直言って、里に来たばかりの時のナルトさんもこうだったけどな――と緩む口角を抑え花屋へと向かう。
 お店に近づけば香りも漂って来て、思わず目を閉じ鼻から思い切り息を吸う。そうして目を見開けば華やかな姿を捉え心まで彩られる気分だ。まじまじと花を見る機会がなかったので、じっと見つめ続ければ「誰か花を贈りたい人居る?」とニヤニヤした様子で尋ねれられた。

「あ、そういえば」
「なになにぃ? 恋バナならいつでも聞くわよ」
「サボテン」
「サボテン?」
「カンクロウさん達の家でサボテン栽培してるのを見まして。サボテンだったら日持ちするし、お土産にしたいなって」

 言いながらハッとする。サボテンって花屋でいいのかな……というか私、自分のお金持ってない。今あるお金は我愛羅さんが持たせてくれたお金だし、それでお土産を買うのは気乗りしない。

「サボテンね。奥にあるから持ってくるわ」
「あ、や、やっぱり……」

 言いかけた声はいのさんに届かず、店の中に入って行ってしまった。どうしよう、せっかく準備してくれているのに“やっぱり要りません”とも言いにくい……。

「サボテンなら多分我愛羅だな」
「我愛羅さん?」
「おう。アイツ、サボテン栽培が趣味だって言ってたってばよ」
「そうなんですね……! じゃああの綺麗なサボテンたちは我愛羅さんが」
「我愛羅、喜ぶだろうな」
「でも私実は持ち合わせがなくって……」
「そういうことなら俺が買ってやるってばよ」
「いやさすがにそれは……」

 誰かに出してもらって買うのも違う気がするし、かといって我愛羅さんのお金で我愛羅さんにお土産を買うのはもっと違う気がして。どうしたものかと困り果てていると「あらぁさっき言ったじゃない。お近づきの印にプレセントするって」といのさんが小さなサボテンを抱え戻って来た。

「あ、分かった。ナルトにはコレを買ってもらって、なまえちゃんにはこっちをプレゼントするわ」

 そう言って差し出されたのは綺麗に包装された淡いピンク色の花。縁がギザギザしていて、1つの茎から数本枝分かれしてその先に小さな蕾をいくつか宿している。とても綺麗な花だと見惚れていれば「スプレーカーネション。これなら日持ちするし、砂隠れに戻る頃にちょうど咲くと思う」と微笑まれる。

「元々はどっちもプレゼントするつもりだったんだけど。ありがとね、ナルト」
「いのってば商売上手だよな」
「まぁね」

 いのさんの手のひらにナルトさんがお札を乗せ、口を出す間もなくサボテンとカーネーションが手元にやってきた。一銭も出していないことに慌てふためき2人を見つめても責めるような言葉はなにも言われない。

「あ、あの……本当に良いんですか?」
「もちろん! あんな風にお花を愛でてくれる人はそれだけでいいの。だからなまえちゃん。また里に来る時はウチに寄ってね」
「ありがとうございます!」

 貰った花とサボテンを大事に抱えながら歩けば、「オレも植物に水をやるのは好きだけど、なんでか花を咲かせらんねぇんだよなぁ。我愛羅にコツ訊いてみっか?」と手を顎に当てながらごちるナルトさんも嬉しそうで。その顔に思わず口角が緩むけれど、きゅっと引き締め「お金、お返しします」と伝える。我愛羅さんへのお土産はきちんとしておきたいから。

「いやいや。……んー、じゃあ貸しってことで。また次ココに来た時返してくれってばよ。だから今日1日、食いたいモン、買いたいモン。遠慮せず言ってくれ! なまえちゃんは、トクベツ無金利で貸してやっから!」

 私の言葉に1度は「いやいや」と言いかけたけど、口を閉じてそれから“貸し”と言い換えた。きっと私の気持ちを察してくれたのだ。ナルトさんは人の気持ちを察することの出来る優しい人だから。

「あでも! 一楽のラーメンだけは奢らせてくれってばよ!」
「ラーメンですか?」
「そ! 誰かに奢ってもらうラーメンは別格だから! な?」
「じゃあお言葉に甘えて」
「決まり! それじゃ次は――」

 当初の目的は“氷遁を使いこなすこと”で、それが理由でナルトさんに引き合わせてもらったはずなのに。蓋を開けてみれば木の葉の里観光になっている。ナルトさんだって任務で忙しいハズだろうと詫びれば、「誰かとフラフラするのってそれだけで楽しいじゃん!」と笑い飛ばされた。……確かに、人の目を盗むように生きてきたこれまでに比べれば何倍も楽しい。「観光地もたくさんあるし、息抜きにもなるだろう」そう言った我愛羅さんははじめからこうなると見越していたのだろうか。

「私今、すごく楽しいです」
「へへっそりゃよかったってばよ」



 火影岩について説明してもらいながら歩く途中、“忍具屋 転転転”と書かれたのれんが掲げられた店の前で「ナルトくん!」と今度は野太い声がナルトさんを呼び止める。全身を緑色のタイツで覆い、おかっぱに濃い眉毛を飾る男性に「ゲジマユ加減はいつ見てもすげぇな」とナルトさんは笑いながら応じてみせる。

「今日もトレーニングか?」
「いえ、今日はテンテンの店の手伝いを。あ! 初めまして、ロック・リーと申します!」
「みょうじなまえです」
「ナルトくん、こちらのお姫様は?」
「ひっ……ただの観光客です」
「これは失礼しました! ナルトくんが案内しているのででっきり大国の姫君なのかと……お詫びに逆立ちで里を500周してきます……!」

 逆立ちをして1手2手と踏みしめだすリーさんを「い、いえっ!」と制そうとしたけれど「あれは自分ルールだから止めても無駄だってばよ」とナルトさんが溜息混じりに教えてくれた。木の葉に住む方はみんな個性的でおもしろい。あとでもう1度様子を見に行こう、と心に決めてリーさんと見送っていると「ちょっとリー! 店の手伝いがまだでしょうが!」と額に血管を浮かせながら怒鳴り出て来た女性と目が合う。

「あ……いらっしゃい! て、忍具目当てじゃないですよね。アハハ……」
「あ、えっと……」
「すみませんテンテン。なまえさん、店の手伝いを終えたら必ず500周しますので!」
「あ、いや……」
「そうだテンテン! 確か忍具じゃない商品も入荷してましたよね?」
「え? あー、間違えて仕入れちゃったヤツ」

 テンテン、と呼ばれた女性は店に引っ込み、その手に小さな人形を5体乗せて戻ってきた。「普通の指人形だし、売れないよねぇ。これ」と困り果てた様子のテンテンさんの横で「良かったらコレ差し上げます」とリーさんが言う。

「ちょっとリー! 何勝手に……ってどうせ売れないしね」
「よかったら購入させてくれませんか? お土産にしたくて」
「お土産?」
「この指人形をあげたい人が居るんです」
「んー、じゃあ原価の30両でどう?」
「ありがとうございます!」

 ナルトさんに目線を合わせれば、「おう!」と笑って財布のがま口を開け応じてくれる。お土産、お二人とも喜んでくれるといいなぁ。
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