烏野3年生



 この制服に腕を通し続けて3年。簡単な理由で決めてしまった進学先だったけど、今ではブレザーだったおかげでココに来れたと思える。共に歩んだブレザーとも、今日でお別れ。「今までありがとね」なんて制服に向かって独り言を呟く私は、傍から見たらやべぇヤツなのだろう。

「なまえ」
「おっ、もういいの?」

 桜の咲いていない木の下で空を見上げていると、待っていた人物から名前を呼ばれ振り向く。そこにはこの3年間、ずっと一緒に過ごして来たみんなの姿。どうやらバレー部とのお別れも無事に済んだらしい。
 東峰は泣いてぐしゃぐしゃになるかと思ってたけど、思ったより晴れやかな顔をしている。

「帰るか」
「うん」

 澤村の言葉によって一斉に歩きだす。帰る場所が違うから、ほんのちょっとだけだけど。「一緒に帰ろう」って言ったワケでも、言われたワケでもないけど。なんでかこうなった。まぁ、そんなことはどうでもいいこと。

「はぁ……なんか、色々あったなぁ」
「出た。旭は絶対やると思った」
「い、良いだろ!? ほんとに最後なんだから!」

 東峰の背中を叩く澤村に東峰が抗議し、それを見た菅原と潔子が笑って。誰からか、互いの肩を持って。背中が笑っている4人を後ろから眺める。……本当に、色々あった。試合に負け続けた時、IHに負けた時、全国を決めた時、春高から帰ってきた時。私は全部、眺め続けて来た。
 
 私は、澤村が好き。このメンバーで居る澤村が好き。まだ告白はしてない。「まだ悩んでんの!? もう卒業しちゃうよ!?」と数日前に菅原から言われた時でさえ悩んだ。でも。ようやく今、心が決まった。

「あ、コラみょうじ! 隠し撮り!」
「だって。凄くいい風景だったから。そんなこと言うなら菅原にはあげない」
「著作権!」
「ほかのみんなには送るからね」

 “訴えてやる!”と抗議してくる菅原を無視して「明日髪の毛切りに行くんだっけ?」と潔子に声をかければ、「うん。店先でいろいろと動くことも多いし、切ろうかな」と返された。
 じゃあ今撮った4人の写真が潔子の最後のロングヘアー姿ってことか。

「そっかぁ。ロングヘアー潔子さんともお別れかぁ」
「ふふ。今日も明日もこれからも。私たちは友達でしょ?」
「きよこぉ!」

 潔子の言葉が嬉しくて、堪らず抱き着けば「青春だなぁ」と東峰がしみじみとした様子で呟く。だからアンタはおじいちゃんかっての。

「あっ。てか東峰は東京だっけ。ばいばい」
「いやまだはえぇよぉ」
「ハハハ! 出たよひげちょこ。東京に潰されんなよー?」

 菅原の言葉に「東京に潰されるってなに!?」と顔を真っ青にする東峰。東峰は東峰というか、なんというか。

「アイツ……。最後まで変わらなかったな」
「……澤村は、ゆくゆくは警察官だよね」
「あぁ。厳しい世界だ」
「簡単には会えなくなっちゃうね」
「まぁ、な。でも、清水が言った通り。俺らはこれからも何も変わらない。またこの5人で会おう」
「……! 私も入ってるの?」
「? 当たり前だろ? みょうじだって俺らの仲間だ」
「……うん!」

 私たちは、ずっと、ずっと。5人で続いてゆく。
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