やべぇヤツ



 IH予選を敗退で終えた時、“これで終わりなのか”って思うと、正直私ですら悔しかった。もっと、続けて欲しい。ようやく有望な1年生が入ったというのに。2ヶ月で終わってしまうなんて勿体ない。
 私のワガママでしかなかったけど、みんなと思いは一緒だった。“目指せ春高!”と菅原が親指を立てながら教室に戻って来た時は堪らず声をあげて喜んだ。その後ろに立っていた澤村も、同じように頷いてくれたから。3年生は誰1人欠けることなく残るのだと嬉しくなった。

 菅原や澤村は私と同じ進学クラス。部活だけじゃなく、進学のことも頭に入れないといけない時期。だからこそ、このタイミングで引退して勉強に専念する部活動生も居る。そんな中で部活も勉強も――と両立するのは、茨の道。だけど、この2人ならきっと大丈夫。だって、みんなちゃんと強いから。2年以上一緒に過ごして来たからもう分かっている。

 そして、分かっていることはもう1つ。それは、“菅原はやべぇヤツ”だということ。
 これは、2年の頃から知っていた。ただ、知っていただけで、解ってはいなかったのだ――と思い知らされる日々を私は過ごしている。



「1学期の委員会もそろそろ終わるな」
「そうだね。夏休み明けもよろしく」
「こちらこそ。俺が居眠りしてたら頼むぞ」
「今日も危なかったよね」

 真面目だと思っていた菅原は、授業以外は結構だらしない所もある。私よりはしっかりしてるけど、澤村よりは適当。要は丁度良いのかもしれない。まぁさすがに委員会の時に居眠りするのはアウトだけど。

「みょうじって今日弁当?」
「ううん。委員会長引いたらいけないし、食堂でパン買うつもりだった」

 “昼休みに入れられた委員会なので、居眠りはギリセーフ”という菅原の主張になんだか誤魔化された気もするけど。「俺も。早めに委員会終わったし、学食行く?」という誘いによって“まぁいっか”と流された。お腹減ったし。カレー、まだ残ってるかな。






「おっ菅原は焼き飯定食か」
「今日は麻婆豆腐付きだった! ラッキーじゃね?」
「うわ、七味の量えぐ」

 焼き飯にも麻婆豆腐にもぶっ込む量を見ていたら、なんだか私のがむせてしまう。堪らずお水を取りに席を立てば、「あ、俺のもー」と間延びした声で頼まれた。女子を使いパシるなんて。1年の頃菅原って結構モテてたハズなのに。いつの間にか2年生の王子山くんのが人気者になってしまった。本人はあまり気にしてないし、言ったら言ったでメンチ切りに行きそうだから黙っておこう。それに菅原のヤバさ、結構好きだし。

「ん」
「おーさんきゅー。そんじゃ、いただきます!」

 手渡したお冷を受け取るなり手を合わせて焼き飯を頬張り始める。あれだけ七味ぶっ込んだのに、よくむせないな。それだけ激辛食品を食してきたってことか。

「前に言ってた激辛ラーメン30分ってヤツ、ほんとにやれそうだね」
「おう! 俺なら15分でいける」
「えっはんぶふっ……ぐっほっんっ!?」
「あれ。ダメだった?」
「……す、スガワラァ!!」

 スプーンでひと掬いしたカレー。口に入れて数秒したら辛さよりも痛さが舌をつついてきた。お冷で流しこんだ後、犯人を睨みつければ「スパイスになるかと思って」と肩を竦めてみせた。

「一応、手加減はしたぞ?」
「手加減ってどれくらいよ」
「んー、15振りかけくらい?」
「ばっっかじゃないの!? やって3ふりかけでしょ!?」
「え? そんなんかけてねぇのと一緒だべ?」
「……やべぇヤツだわ」

 もうお昼ご飯は激辛カレーしかない。汗を浮かべながらお水と共に流し込む私を、ペロリと平らげた菅原が「頑張れー」と笑いながら応援し続ける。このヤバさはちょっと考えものだけど。……菅原が楽しそうなので、まぁいいかと思ってしまう自分が居た。

「菅原」
「ん?」
「アレ」
「ん? クリームプリン? 買ってくる?」
「…………」
「…………オゴラセテイタダキマス」
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