He will be back soon



 新品特有のパリっとしたあの頃を懐かしく思うようになった。2年間袖を通し続けたブレザーは、新鮮さよりも馴染みを呼ぶようになった。この制服を着られるのもあと1年。そのことに名残惜しさを感じるけれど、それよりも次の進学に頭を向けないといけない。最上級生とは、そういう年だ。

「菅原、集中しろー」
「すみません……」

 3年生で同じクラスになった澤村と菅原。菅原は東峰との絡みで結構ヤバいヤツって印象だったけど、同じクラスになってみるとそうでもない。儚くて、危うげな美青年って感じ。……おかしいな。

 菅原のこと良く知らないし、“おかしい”と思うことも失礼なのかもしれないけど。なんか、やっぱり元気がないように見える。2年の時、東峰を訪ねて来てた時はもっとこう……なんていうか……やべぇヤツだった。菅原がどうしてこうなったのかの理由は、なんとなく知っている。


 
「菅原。委員会」
「おっ、そうだったな。行くべ」

 昼休み。潔子と昼ご飯を食べ終えた後、教室に戻って菅原に声をかける。近くに座って居た澤村に「じゃ行ってくる」と声をかけて私に近づいて来る菅原。澤村も菅原もどこか疲れた表情を浮かべていたので、「大丈夫?」と思わず尋ねてしまった。

「ん? 平気。……多分」
「ごめん、部外者が口挟んでいい問題じゃなかった」
「いやいや。みょうじは部外者じゃねぇよ」
「でも私はバレー部じゃないし」
「清水の友達で、旭のことも知ってる。じゃあ俺にとっても友達だ」
「はは。謎理論」

 やべぇヤツの片鱗を見た気がして、ちょっぴり嬉しくなるなんて。菅原に失礼か。だけど、菅原にそういう風に言って貰えたのが嬉しくて、もうちょっとだけ口を出すことにした。

「東峰はバレー嫌いになんてならないと思うよ」
「……だといいんだけど」
「大丈夫。へなちょこだけど、強いから」
「みょうじは旭のこと、ちゃんと知ってるんだな」

 力なく笑う菅原を見ているとちょっとだけ胸が痛む。東峰のことを褒められて、嬉しそうなのに。心から笑えていないような。
 東峰が試合でうまく力を発揮出来なくて、それが原因で後輩とモメてそこから顔を出さなくなったことは知ってる。潔子から話を聞いた時、“へなちょこだな”って正直思った。あんなにバレーが好きなんだから、どれだけバカにされても“辞めたい”って思わなかったんだから。今ここでバレーを辞めるなんて、出来るワケないんだから。

 菅原は私のこと、“部外者じゃない”って言ってくれたけど、どうしても“チームメイト”にはなれない。だから、私が容易く言うなんてダメだ。

「俺も、旭の性格分かってたハズなのになぁ」
「シャフス時代からの付き合いだしね?」
「あっ。みょうじ知ってるんだ?」
「本人から聞いて笑い転げた」
「俺半年くらい心の中で言ってた」

 懐かしそうに笑う菅原の表情がふ、と暗くなる。

「誰よりも分かってやらないといけなかったのに……」
「菅原、」
「アイツがへなちょこで、へなちょこなりに一生懸命やってるってこと。俺はそれを仲間として支えるべきなのに。頼りきりになっちまった」

 心から笑えていない理由はきっと、自分のせいで東峰がああなったっていう後悔があるからだろう。菅原はやべぇヤツだけど、誰よりも仲間のことを思いやる人なんだ。菅原にとって私は友達なんだとしたら。私にとって菅原も友達。

「でもさ、エースなのにエースとしての仕事を求められないのも嫌じゃない?」
「え?」
「東峰の性格からすれば、それこそ自分のこと責めそう」
「……確かに。そうかも」
「今はへなちょこだけど。東峰だってバレー大好きだし。戻って来るよ。……多分」

 容易い言葉は言えないけれど。これは友達としての励ましだから。

「はは、多分かぁ」
「……相手はひげちょこなので」
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