眩まずにはいられない

 あれは中学3年生の時。春先の陽気に浮かれていた日々が霞み、何もかもが新緑を越して真っ黒に見えていたあの日。

「家族が無事なら何の心配もないので、最後まで思いっきり戦えると思います」

 近所の豪邸を羨んでいたこともあった。だけど、孤独になってみると我が家も広すぎて。がらんとした空間に、テレビから放たれた凛と澄んだ声だけが響く。

 家族が無事だったら? 最後まで? このイケメンが言う最後とは、つまり最期のことなんだろう。……良く言えたものだ。家族が守れれば、自分は戦いの中で散っても良いと――本気でそう思っているのだろうか。

 テレビ越しに見つめる彼は、瞳を揺るがすこともなく堂々とした態度で「ご支援よろしくお願いします!」と頭を下げている。

 遺された人の気持ちは? 守られて死なれた人の気持ちは? どうお考えですか?

 戸惑いや、悲しみ、怒り。そういう負の感情が私を押し上げて、飛び出していきそうになる。インタビュアーの中に混じって、詰め寄りたかった。だけど、そんなことは出来ないし、した所で虚しくなるだけだ。もやりと燻る気持ちを必死に捏ねては心に押し留め、それを膝の上で握りつぶして、体内に落とし込む。そうすればまた、重たい闇が鉛となって居座る。

 苦しい。息ってどう吸えばいんだっけ。どう吐けばスッキリ出来るんだろうか。考えても考えても分からないし、ただただ苦しいだけ。





 
 イケメンが紹介したボーダーという機関は、つい数ヶ月前に出来た新しい機関。なんでも、それより前から活動は続けていたらしいが、今回の騒動(第一次大規模侵攻と名付けられたらしい)を受け、正式に発足に至ったのだとか。

 本当は分かっている。ボーダーが出来ていなかったらもっと色んなものを失っていたってことくらい。だけど、私にとっては家族がなによりも大事で、失いたくないものだった。

 あの日、東三門に足を伸ばさなければ。そこでしか上映されていない映画を観たいと願わなければ。私がワガママを言わなければ。私を庇ってガレキの下敷きになる両親を見ずに済んだのかもしれない。

 私は、守られて生かされた。それがどれだけ辛いものか、このイケメンは体験してないから軽々しく言えるんだ。八つ当たりだと分かっていても、この苛立ちは止められなくて。そうしていないと、自分がおかしくなりそうだった。

 テレビに映るイケメンを睨み、お前なんか大嫌いだと心の中で泣き叫んだ。




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