透明度の高い嘘

 合同体育。いつもやったら率先してこなす授業やけど、今日は生憎そんな気分やない。なんで女はバレーなのに、男はバスケなん? バスケで突き指でもしたらどないするん?……てことで俺は得点係。先生もちゃんとスコアを動かして仕事してれば文句も言うてこんし。それでええ。

―宮くん! ちゃんとしいや!

とか、みょうじさんがおったら言いそうやなぁ。……て、ふふふやないわ。何ニヤけてんの自分。ほんま変態。

「侑点動かして」
「あぁ、スマン。どっちの点?」

 うわの空かましてたらコートの中におった角名から「しっかりしてよ」とツッコミが入り、それには舌見せて威嚇を返しといた。うるさい、俺は今それどころやないねん。

「侑またサボっとぉ」
「……おー」

 仕切りネットの向こう側でバレーをしよった女子生徒が俺の近くに来て絡んでくる。喧しい。バレー出来るお前に言われたないねん。バレーは真面目にせぇ。……て、これ、みょうじさんが言いそうな言葉やんけ。うわ、はっず。

「侑? なんか顔赤ない?」
「いや、別にそないなことないで?」
「ふーん?……あ、みょうじさん! 頑張れーっ!」
「みょうじさん……?」

 絡みよった女子生徒が“みょうじさん”とここ最近俺の脳みそを蠢く名前を口にする。俺、遂には人に言わせるまでになってしもうたんか?……いや、待った。みょうじさんて1組て言うてたよな? 俺、2組。そんで、今、1組と2組の合同体育。てことは、みょうじさんおるやん……!
 全ての点が線になった時、スコアなんかほっぽり出して女子コートに釘付けになった。みょうじさん、みょうじさん……おった!

「うわ、動きぎこちな……っ」
「ねー、運動神経超絶悪いよね」
「バカにしとんのか?」
「えっ? ちゃうよ、可愛いやん」
「……そうか」

 ならええ。って……は? 俺、ちょっ、はぁ? 何、なんで分かっとうならええよ的な感情抱いとんの。……きっしょ。とかなんとか。必死に自分を貶してみても、みょうじさんから視線は外せんまま。そこ、そこでボールの真正面に入って……あぁ、もう、違う! あー、側に行って教えてやりたい。

「ツム、お前変態みたいやぞ」
「うるさい。サムは黙っとれ」

 スコアラーを放棄した俺の代わりに呼ばれたのか、スコアボードにやって来たサムがウザい言葉を投げてくる。そんなんどうでもええ。つーか、お前が俺の側に来んなや。俺がみょうじさんの近くに行きたいねん。

「お前、いつからそないみょうじさんのこと好きになったん?」
「……はっ? スキ……?」
「いやどっからどう見てもそうやん。今のお前、カンペキみょうじさん大好きやん」
「……いやいやいやいや、何言うてんの。あの真面目で芋クサいヤツをか?」
「なに、ちゃうの?」

 違うのかと疑問形で訊いてくるサムの眠たそうな目からは自信が垣間見える。こないだ絡まれて、ウザイなぁって思って、そっから注意するのを止めるて言われて、それがなんか悲しいで、ただ最近よお頭ん中に浮かんでくるってだけで……。別に……。
 自分でも分かるくらいテンパった頭でもう1回みょうじさんを見つめてみる。……髪の毛が汗で首に張り付いてなんかエロい。あのみょうじさんにムチで叩かれんのはめちゃくちゃ興奮……いやいや。待って、新たな性癖見出そうとしてる。これはマズイ。

「別に、好きとかやな「あ、みょうじさん危ない!」

 みょうじさんから逃れるように女子コートから視線を外すと近くにおった女子生徒が声を張り上げた。そうして再び視線を戻すのとみょうじさんの顔面にボールがヒットするのはほぼ同時やった。

「あちゃー……おもっきしいったな……て、ツム!?」
「どけ!……おい、みょうじさん、大丈夫か!?」
「うん……? 宮、くん?」
「ちょお先生! 俺保健室連れてくから!」

 額を押さえるみょうじさんを横抱きにしてそんまま保健室へと一直線。どないしよ、みょうじさんが死んでしもうたら……! あかん、それは駄目や。待っとってな、俺が今助けたるから……!

「……あれで惚れてへんて言い張るの、すごない?」
「うん。スマホあれば絶対録ったのに」

 血相変えて出て行った俺を体育館に残された生徒全員が唖然とした表情で見送っていることなぞ露知らず。そして、片割れと角名がそないな会話交わしてることも。なんも知らん。とにかくみょうじさんをどうにかせんと、その思いでいっぱいいっぱいやった。



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