さながら乙女

 非番を挟んで再び顔を合わせた風間さんに、私は気まずい気がしたけれど、風間さんはいつも通りだった。ここ最近は大規模侵攻の名残で色々と仕事が立て込んでいたし、あの時風間さんが言ったように、本当に疲れていただけなのかもしれない。

 そう思って割り切れれば、意外と普段通りに戻ることが出来た。こういう時、ばかで良かったと思う。



 あれから数日経って、今日は玉狛第2の第2戦目の日。シフト的にギリギリ見れそうだと思っていると、風間さんが当たり前のようにモニターの電源を入れてランク戦を見始めた。いつもだったらシフト前は行動予定とか確認してるのに。……いつも通りじゃないのは三雲くんの隊だから? 
 なんて、またしても大人気ない嫉妬心が心を蝕んだけれど、私も玉狛第2の試合は気になったので、黙ってソファで試合展開を見つめた。

「玉狛第2、中位グループのトップですよ」
「クガがやられたらアウトなチームでしょ所詮。ねぇ、風間さん」

 菊地原くんは玉狛第2に厳しい。というか、全般的にこの子は辛口だ。菊地原くんが同意を求めるように風間さんに話を振ると、風間さんはモニターの電源を消しながら「なかなかいい諏訪の使い方だ。でも次はこうはいかない」と辛口ながらも褒めの評価を下した。

「私、先に行ってます」

 大人気ない嫉妬心をこれ以上出したくなくて、一足先に作戦室を後にする。“てめぇで気付け”とか太刀川は格好付けて言ってたけど。これ以上嫉妬してるってことを自覚してどうしろというんだ。



 風間さんはあれからずっと玉狛第2の動向をチェックし続けていた。ラウンド3は歌歩ちゃんが解説ということもあって、みんなで観覧席で試合を観た。隣で太刀川と迅くんの解説に頷いていた風間さんを見て複雑な気持ちになりながら。

 解説を終えた太刀川と迅くんが私に気付くなり、やけにニンマリとした顔を見せるから、太刀川を顎でしゃくると「ランク戦すっか!」と楽しそうに言葉を返してくる。こいつは本当に寝ても覚めてもランク戦だな。

「今の私がA級でどのあたりなのか試してみたいし、乗った。ツラ貸せバ川」
「言い方」

 モヤモヤする気持ちを振り払う為にも太刀川の呼びかけに応じると、隣に居た風間さんが「では迅。お前は俺にツラを貸せ」と迅くんを呼び止める。

「……うわぁ、確定未来だったけど……うわぁ……」

 そろりとその場からベイルアウトかまそうとしていた迅くんの肩がビクリと跳ねあがり、観念したように溜息を吐く。そういえば風間さん、こないだ迅くんにもの凄い敵意出してたような……。

―迅、迅、迅。お前は迅が好きなのか?

 こないだのやり取りを思い出して、ハッとする。……私、もしかして風間さんに勘違いされてる……?

「ねぇ、バ川……。もしかして風間さんが迅くんに敵意剥き出しなのって、私のせい?」
「おぉ!」
「俺の隊員に手を出しやがって……みたいな、そんな感じなのかな?」
「……馬鹿だよなぁ、なまえって」
「どうしよう。もしそうなら違うのに」
「風間さんに勘違いされて、焦ってんのか?」
「えっ」

 太刀川の言葉にまるで図星だと言いたげに心臓が跳ね上がる。

「わはは。まぁ今は良いや。何にしても玉狛はなまえと風間さんにとって、キーマンってことだな。早くブース行こうぜ」

 そう言って背中を押す太刀川によって会話はそこで断ち切られてしまう。

 最近、私の周りの人は分からないことばかり口にする。知らないのは私だけなのかと、なんだかとても悔しくなってしまう。そんな悔しい気持ちを振り払う為にも太刀川とのランク戦でめちゃくちゃに暴れまわってやった。

「木虎の再来ってのが懐かしい呼び名になったよなぁ」

 あぁそれもこれも全部、風間さんに出会ってしまったからだ。

「風間隊の狂犬、やっぱなまえにピッタリだわ」

 そんな嬉しくない呼び名が定着してしまっていることに、誇りすら感じてしまっているのも。全部。全部、風間さんのせいだ。



「そういや、4戦目。お前んとこの隊長、解説頼まれてたぞ」

 太刀川とのランク戦を終え、ラウンジで一息吐いている時太刀川が次回のB級ランク戦について口にする。

「お昼はシフトだから、夜の部ってことか。……風間さんも楽しみだろうね」
「玉狛第2だしな」
「……うん」

 今、私が感じてるこの嫉妬心も風間さんのせいなんだろうか。

「7日後かあ〜、その頃にはバレンタイン終わってんな」
「ボーダー内でもそういうの、一応やんの?」
「やる所もあれば、やらねぇとこもあんじゃね? ちなみに俺はフリーで受け付ける構えだぞ」
「それは聞いてない」

 バレンタイン……歌歩ちゃんはどうするんだろう。……私は風間さんに。どうしたいんだろう。

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