まばたきの度に侵食

 あれから風間さんは三雲くん達のことが気に入ったらしく、事あるごとに動向を窺っている。

 それは別に良いんだけど。でも、空閑くんがランク戦で活躍してるのをそんなに満足そうに見なくても良いじゃんって思うことは何度かあった。……なんか複雑。



「やーなまえさん。今日の防衛任務、やけに荒れてたねぇ」
「迅くん。その手、危ないよ」
「おっと。危ない危ない」

 任務終わり、中庭でジュースを買っていると1部隊として一緒に防衛任務にあたっていた迅くんが声をかけてきた。
 明るい声と共に挙げられた手がどうも怪しい角度だったので、鋭い声でそれを制す。迅くんってば息をするようにセクハラするんだなぁ。

「迅くんの後輩、ここ最近すごい噂になってるね」
「でしょ? さすが俺の後輩」

 自販機の返却レバーを押し、代わりにポケットから出したお金を吸い込ませ、私に目線を送り選べと合図する迅くん。

「あ、ありがとう」
「これでこないだのセクハラチャラにしてくれる?」

 意外と律儀なセクハラ男にジト目を送りつつもカフェオレを選択し、ベンチに腰掛ける。

「なまえさんさぁ、俺の後輩に嫉妬してるでしょ?」
「なっ……!?」
「まぁ、この未来も確定気味だったけどねぇ」
「……どういう意味? たまには意味分かるように話して」
「あはは、ごめんごめん。なまえさんと遊真を早い段階で引き合わせたのは、ちゃんと理由があってね。なまえさんに遊真達が良いヤツだって分かってもらえれば、風間さんにもそれが伝わり易いと思って。そうすれば、黒トリガー奪取の任務の可能性が低くなると思ってたんだよね。……まぁそれは上手くいかなかったわけだけど」

 私の批判に笑いながら事情を説明しだす迅くん。でも、まだ話の意図は掴めない。

「でも、そのおかげで風間さんはメガネくん達に興味を示してくれた」
「……うん?」
「いずれメガネくんや遊真達が活躍する未来が訪れる。その為に、風間さんの力が必要なんだ。だからなまえさん。その点に関してはなまえさんに感謝してる。なまえさんが居なかったら風間さんはまだこの段階ではメガネくん達に興味を示していなかったからね」
「そ、そう……?」
「うん。だから、これからも、うちの後輩達をヨロシクね」
「うん……! 分かった!」

 人に感謝されるというのは嬉しいものだ。迅くんの言葉にすっかり気を良くした私に、迅くんが笑って「じゃあ俺、これから会議あるから」とベンチから腰を上げる。

「あと、心配しなくても風間さんはなまえさんのこと、大事に想ってるよ」
「えっ!?」

 ちょっと! と声を荒げても、その背中はもう数メートル先にあって、立ち止まることなく基地内へと向かう。結局、私が知りたかった部分ははぐらかされたままだ。大体、“心配しなくても大事に思ってる”って言われても……。あぁ、そんな簡単な言葉で上がってしまう自分の単純さが悔しい。



「……? どうした? 風間」
「失礼……C級のブースで……玉狛の空閑が緑川を圧倒しているようです」

 会議に参加し、近く起こると予測される近界民の大規模侵攻についての議題を行っている時、隣に居た風間がモニターに注目し、空閑の動向を捕らえた。

 その言葉で会議に参加していた全員の視線がモニターへと移る中、迅は風間へと視線を動かす。

「……なんだ?」
「いいや別に。俺の後輩に注目してくれるのはありがたいことだけどさ、なまえさんにももう少し注目してあげなよ?」
「……どういう意味だ」

 途端に眉根を寄せる風間に思わず口角が上がりそうになるが、風間相手にそういう表情を浮かべようものならば、目敏く見つかることが予想出来る為、必死に隠す。

「これ以上風間さんと模擬戦する未来確定させたくないもんなぁ」
「……意味が分からん」
「ううん、なんでもない。あ、別に風間さんと模擬戦するのが嫌とかそういうんじゃないからね」
「お前のそういうわけの分からん所がムカつくな」
「あっはは。なまえさんにもそんな感じで怒られたなぁ」

 みょうじの名前を出せば出す程風間の眉根に皺が寄る為、どこまでその皺が出来るのか試してみたい気にもなるが、生憎今は会議中だ。その悪戯心を隠し、本題へと戻ることにする。

「迅、ここに空閑達を呼んで来い」
「迅了解」

 城戸に命令され席を立つ。恐らく近界民としての意見を訊く為だろう。ボーダーの為に使える人材は近界民でも利用するのが城戸という人間だ。ただ、そこにおいては何の損も感じないので迅は大人しく従う。

「風間さん、大規模侵攻の時、なまえさん凄く頑張るから。ちゃんと褒めてあげてね」
「……ふん」

 あまり良い返事ではなかったが、風間は人の意見にきちんと耳を貸す人間だ。その点においては不安になることもない。……さて、この大規模侵攻。色々と大仕事が待っている。

 迅は溜息を1つ吐いて会議室を後にした。

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