ほつれる想い

 小型ネイバー駆除から数日。無事に全小型ネイバーの駆除も終わり、イレギュラー門が発生する回数も減って、平穏な日常が戻って来たと思っていた矢先。

「わーまたかぁ……。まぁ警戒区域内だけれども」

 コンビニに立ち寄った所で警報が鳴り、そっちの方面へと駆け出そうと換装している時にまたしても迅くんに出くわす。

「迅くんってもしかして……私のことつけてる?」
「あはは、そう思われるくらいの頻度だよね、ここ最近。でも言ったでしょ? 俺も怖いもの知らずではないって。まぁでも、俺もあっちに行く用事があるからさ、一緒に行こうか」

 流されるように一緒に警報が鳴る方へと足を向けると、既に別の隊が応戦していて、ひとまず安堵する。三輪隊なら大丈夫だろうと踏んで訓練を再開する為に本部へと踵を返そうとすると、「実は秀次達と遊真がこれからとひと悶着あるからさ。見に行こうよ」と迅くんからワクワクした口調でその足を止められてしまった。

「えぇ? ひと悶着あるんなら止めないとでしょ!? 視えてるんならなおさら!」
「もちろん、止めるさ。良い所でね」

 迅くんの言っている言葉はいまいち理解出来ない。でも、決して無駄なことはしない。だから私も、迅くんの後を大人しくついて行くことにしてみた。



 ついて行った先で行われていたのは、ひと悶着どころか戦闘だった。しかも、1対多数の。戦況を見て慌てて飛び出そうとした私を迅くんはまたしても制し、「良いタイミングで行くから」といつになく真面目な声色で告げて来た。そうして迅くんの隣で待てをすること数分。

 あっという間に戦況を変えてみせた空閑くんに呆然と立ち尽くしている所で迅くんが奈良坂くん達の元へ行き、そのまま空閑くん達の元へと向かう。

「おーなんだ遊真、けっこうやられてるじゃんか」
「これ、止めたって言えるの……?」
「あはは、どうだろ」
「おっ迅さんになまえさん。こないだぶりですな」
「空閑くん! きみ、もの凄く強いんだね! びっくりしたよ!」

 空閑くんと会話していると、三輪くんとやり取りしていた迅くんの声が場を静かにさせる。

「おまえら三輪隊がやられるのも無理はない。なにしろこいつのトリガーは黒トリガーだからな」

 その言葉にそこ居た全員が驚愕の顔を浮かべる。黒トリガー……ってなんだ?

「……レプリカ、黒トリガーって何だ?」

 三雲くんがレプリカ先生に尋ねてくれたので、私もいかにも知ってますという顔をしながら先生の解説に耳を傾け、そこで黒トリガーの仕組みを理解する。……近界民で、黒トリガー持ち。それを、城戸指令が脅威だと思わないはずがない。

「……だから三輪隊がここに居た訳ね」

 城戸派閥の中でも過激派である三輪くんは、空閑くんが近界民だと知って排除する目的だったのだろう。でも、そうならなくて良かった。

「さてと。三輪隊だけじゃ報告が偏るだろうから、俺も基地に行かなきゃな」

 迅くんの言葉に私も一緒に行くと答え、三雲くんを加えた3人で基地へと向かう。道中少しだけ三雲くんと話をしてみたけれど、三雲くんはやっぱり良い子だという印象だったし、迅くんの近界民に対する考えにも賛同出来た。……でも、私が所属するのは風間隊で、城戸派閥の隊。となればこの考えは、風間さんとは正反対ということになるのだろうか。そう思うと、胸がきゅっと苦しくなる。

「なまえさんは風間隊の人だから、報告は一緒じゃない方が良いかもね」
「……かもしれない」
「今日は付き合わせちゃってごめんね。でもこれも大事な過程だったんだ」
「……?」
「なまえさんは派閥がうんぬんとか、あまり考えなくて大丈夫だよ。風間さんはそんな人じゃないから。なまえさんがこれまでメガネくんたちと接して思ったことを素直に伝えて欲しい」
「で、でも……、」
「大丈夫。風間さんなら、きっと受け止めてくれるから。……俺のサイドエフェクトが言わなくても分かるでしょ?」
「……分かった」

 コクリと頷く私に満足そうに笑って三雲くんと一緒に会議室へと入っていく迅くん。風間さん達が居ない間に、色んなことが起こった。……正直言って私は派閥とかそういうのどうでも良い。でも、風間さんと考えが違うってなると、そこには複雑な思いが絡む。

 これも、大事な過程なのだろうか。尋ねたい相手は今、私の前には誰1人として居ない。私、今、無性に風間さんに会いたい。

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