トリオン兵と共に砕けろ未来

 迅くんの忠告のおかげで、ギリギリ寝坊はまぬがれ無事に過ごした1限。3限にある講義まで食堂でご飯を食べながら過ごしている時に、ボーダーからの指令がスマホに入った。内容を確認すると、“イレギュラー門の原因が小型近界民である事が判明。その近界民駆除に全隊員であたれ”という指令だった。

「なるほど……。迅くんが言ってた大仕事ってこれね」

 彼のサイドエフェクトの凄さに感嘆の声を上げていると、その人物から着信が入った。

「もしもし、なまえさん? もう指令見た?」
「見たよ。ボーダーからの指令だったら講義休めるし、今から向かうよ。迅くんが指揮するんでしょ? よろしくね」
「あー、それなんだけどさ。もし良かったらなまえさん、俺とっていうか……、まぁいいや。一緒に動いてくんない?」
「良いけど。迅くんレベルなら1人でも出来るんじゃ?」
「まぁ詳しいことは会ってから話そう」

 そう言う迅くんにひとまずは了解の意を告げ、大学を出て迅くんに言われた公園へと足を向ける。



「迅くん! ……と、三雲くん! それに、フワフワくんまで?」

 やーなまえさん。と手を上げる迅くんの横に居たのは昨日渦中に居た人物で。というか、三雲くんはまだ分かるけど、どうしてここにフワフワくんが? 昨日の感じだと、彼はボーダー隊員じゃなかったみたいだけど。

「どうも。フワフワくん改め、空閑遊真です」
「あ、みょうじなまえです」

 互いに挨拶を交わし、それでも頭にハテナが浮かぶ私に迅くんが「いずれ分かることだからなまえさんには先に言っておくけど。コイツ、近界民なんだ」と衝撃の事実を告げる。

「近界民!? え、でも……他の近界民とは全然違うよね?」
「ああいうのはトリオン兵っていうんだ。門の向こうに住んでる近界民は普通に人間だよ」
「そうなんだ。だからか」

 空閑くんの素性が判明し、そこで昨日の空閑くんの言動の紐づけが出来た。

「なおのこと近界に興味が湧くなぁ」
「なまえさんならそう言いそうだと思ってさ。だからここに来てもらったんだ。遊真もトリガー使いだけど、こっちでは認証されてないトリガーだからさ。下手に使えないんだよ」
「どういうこと?」

 迅くんの言葉にハテナを浮かべていると空閑くんの脇からにゅるりと炊飯器のような物体が浮かび上がってきて、「初めましてなまえ。私の名前はレプリカ。ユーマのお目付け役だ」と挨拶される。

「おお、初めまして……! 何この子、可愛い!」
「なまえの疑問には私が答えよう」
「はぁ」
「先ほどユーマが話したように、ユーマはこちらの世界ではいわば“近界民”だ。そして、こちらの世界では“近界民=敵”という図がなりたっている。そんな近界民のトリガーをオサムやなまえの近くで使用したとなれば、なまえ達がネイバーと接触しているのではないかと疑われてしまうということだ」

 ペラペラと解説をしてくれたレプリカに思わず「先生……!」と感激してしまった。なるほど。確かに、ボーダー総司令である城戸さんは“近界民は絶対許さない”という強硬排除派だ。近界民のトリガー使用が発見されたとなるときっと面倒なことになる。だから私がここに呼ばれたのか。

「そういうことだから。なまえさんは遊真と一緒に人目に付かない場所で行動して、小型近界民の駆除にあたってもらえないかな。その間に近界のこと、色々訊けると思うし」
「……そっか! 確かに! ありがとう、迅くん!」

 色んなことを考えて、組み合わせて。それでいて、遠征に行けなかった私に近界出身の空閑くんを引き合わせてくれて。迅くんは凄い。一体何手先まで視えてるんだろう。

「いやいや。こうすることで防ぎたい未来の可能性が低くなれば――って、そういう思惑もあるから。気にしないで」
「そうなの? よく分かんないけど……。とにかく害虫駆除! 開始します。空閑くん、レプリカ先生、よろしくお願いします!」

 そうした挨拶もそこそこに、私は空閑くん達と昼夜を徹して小型近界民駆除にあたるのだった。

prev   top   next
- ナノ -