君を知る時間

 風間さん達が遠征に行って数日。所属する部隊がない私は臨時的にフリーとなっている。どこかの隊の補助に入ってみたり、混成部隊の一員になったりして日々を過ごしていた。

 勿論、訓練も続けている。カメレオンを使った戦術を自分なりに練って、試しての繰り返しだ。早く風間さんに披露して指導してもらいたい。

―緊急警報 門が市街地に発生します 市民の皆様は直ちに避難して下さい

 それにしても、精鋭部隊が遠征に出て行った後くらいからこうして門が発生する頻度が多くなった気がする。しかも私の目の前でだ。これで3回目か。

「トリガー起動!」

 門から現れた近界民にスコーピオンを向ける。風間さんの指導を思い返せばあのレベルはなんてことない。……けど、この数の多さはさすがに気になる。



「昨日、またなまえさんの近くで門が開いたらしいですね」
「そうなの。私を狙ってるのかって訊きたいくらい。ま、返り討ちにしてやったけどね」
「なまえさんのおかげで被害を最小限に抑えることが出来ました」
「そんな。藍ちゃんが居ればもっと心強かったよ」

 お互いに褒め合ってうへへと照れ合うのはいつぶりだろうか。今日も藍ちゃんは可愛いと思いながら電車に揺られている私を、前の席に座っている嵐山くんと時枝くんが穏やかな表情で見つめてくる。嵐山隊はみんな穏やかだ。佐鳥くんは穏やかとは言い難いけれど、(ちなみに今日は抜け出せない学校行事という名の補習があるとかで、休みらしい)それでも菊地原くんみたいな子が1人として居ない。……あぁ、菊地原くん。元気かな。

「今日はみょうじさんまで付き合ってもらうことになってしまって、すみません」
「いやいや。逆に私なんかがメディア活動に参加して良いのかどうか」
「いえ。みょうじさんは多発する門に1番対応している隊員ですから。一緒に来て下さるのはありがたいです」

 目の前で“良い人オーラ”を醸し出す嵐山くんに爽やかに言われて素直に気を良くする。風間さんが居れば溜息を吐かれていただろう。

 今日は頻発する門の発生に対し、テレビを使って市民に警戒を促す為の活動に参加することになっている。私が1番対応しているということと、私をメディアに出させたいという上層部(主に根付さん)の思惑と、丁度私がフリー隊員であるということが重なり、今日1日私は嵐山隊として活動することになっている。

「それにしてもメディア活動する時って公共機関使うんだね」
「そうすることで市民の親近感も湧きますから」
「なるほど!」
「それに、ふれ合いの場が増えますしね」

 道中、何度か“写真撮って下さい”“握手して下さい”という声を向けられていた嵐山くん。その全てを快諾していたけれど、全く苦に思っていないのだろう。私ならプライペードをくれと思ってしまう所だ。……やっぱり、私は嵐山隊に所属しなくて良かったかもしれない。

「今日のテレビ出演で少しは市民の避難もスムーズになると良いんだが……」
「そうだねぇ」

 でも、今日1日は嵐山隊だ。やるからには全力でやらないと。でないと戻って来た時に風間さんから怒られてしまう。

「そういえば、公共機関の話で思い出したんですが、」
「うん? 何、時枝くん」

 風間さんの怒った顔を思い浮かべていると、時枝くんの顔がハッとして、「風間さん、少し前まで市営バスを子供料金で乗っていることに気が付いてなかったらしいですね」と今しがた私の脳内に浮かんでいた人物の思いがけないエピソードを披露する。

「えっ!? 嘘っ、風間さんが?」
「あぁ、そういえば雷神丸に乗ろうとしてたのを監視カメラに録られてたっていうのも、綾辻先輩伝てで聞いたことあります」
「ら、ライジンマル?」
「玉狛に居るカピバラです」
「えっ風間さん、カピバラに乗ろうとしたの? ちょっとそれウケる!」

 他にも色々と風間さんの抜けているエピソードがあるらしく、道中は天然エピソードで盛り上がった。

 どこまでが本当か、帰ってきたら訊いてみよう。

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