180度の恋

「琴音、終わった?」
「あっ鈴音っ! あとちょっと! 一緒に行こっ」
「そのつもりで迎えに来たの」
「ありがとう〜!」

 ひょっこりと顔を覗かせた鈴音を見上げると、鈴音は私の顔とは裏腹に呆れ顔を浮かべた。

「琴音、そのペースだと授業始まるよ」
「えっ嘘っ。ペース上げるからちょっと待ってっ」
「待つより一緒にやったが早い。でしょ?」
「鈴音〜!!」

 床に取り残されていた荷物を拾い上げ、スタスタと歩き出す鈴音。鈴音が男子だったら絶対モテたと思う。……だけど、鈴音がどっちの性別であっても私は鈴音のことが大好きだし、憧れ続ける。

「鈴音、いつくらいなら女バレの体育館貸せそう?」
「んーこの荷物を持ってくれたら考える」
「まじ? 貸して! それ持つ! 俺が持つ!」
「ついでに琴音の荷物もね」
「もちろん! 琴音、貸してごらん」
「えっ、で、でも……」

 鈴音の言葉に踊らされている徹くんと、そんな徹くんを冷たい目で見つめる鈴音。その2人の間で忙しなく視線を動かしていると、鈴音が「持たせな。こいつアホだし」と徹くんに向かって追い打ちをかけた。

「あ、アホって……! 俺のどこかアホに見えるのさ!」
「アホじゃん。どっからどう見ても」
「うっわ、ちょっ……うわ、グッサリ〜」
「アホくさ。琴音、早く行こう」

 倒れ込んでいる徹くんを気にかけながらも、鈴音の後を追いかける。……徹くんって、部活中はものすっごく格好良いのに。鈴音と一緒に居る時は雰囲気が変わるんだよね。なんていうか、おバカな男子高校生、みたいな。……うまく言えないんだけど、そういう徹くんも面白くて好きなんだ。

「琴音、毛先ちょっと痛みだしたね? 今度一緒に美容室行く?」
「そうだね。整えて貰おうかな」
「ちょっと。俺を置いて行かないでよ」
「あれ。まだ居たの」
「そりゃ居るよ。オバケじゃないんだし。俺も一緒に行かせて」
「美容室に?」
「美容室? 何の話?」

 いつの間にか復活した及川くんは結局私と鈴音の荷物を持ってくれた。徹くんに美容室のくだりを話すと「なるほどね。メンテナンス、大事だもんね」とキザな顔を浮かべて頷かれた。

 ねぇ、徹くん。徹くんは覚えてるかな。前にゆるふわウェーブが好きって言ってたの。私、あの日から一生懸命巻き髪の練習したんだ。……うまく、巻けてるかな?

- ナノ -