君に逢いたい、今、どうしても

 夏休みも残すところあと数日となった。あれから安田先輩達と遊びに出かけたり、ルナマナちゃんと一緒に勉強会という名のお遊び会をしたりとそれなりに夏休みを楽しんだ。

 ドラケンさんも無事に退院し、東卍メンバーで良くつるんでいるようだ。三ツ谷くんとも普段通りに接せれるようになったし、毎日が楽しい。夏休みが終わることもそこまで悲しいことと捉えてはないけれど、それでもお昼から遊べる期間が終わるのはやっぱり少し名残惜しい。

 お昼にかかってきたエマちゃんとの電話に花を咲かせ、その電話を終えて買い物に出かけた帰り道。今日も三ツ谷くんとの進展は何かないのかと散々詰め寄られたなぁと電話のやり取りを思い出してニヤニヤしていた時。

「荷物持ってあげようか?」
「いえ、だいじょうぶっ……」

 救いの手を差し伸べてくれる人だ。優しい人に違いないけれど、ありがたく断ろうと振り返ったのが間違いだった。前にもこういう思いしたこと、あったような……。でもあの時は結局間違ってなかったんだよね。でも、今回は本当に間違えてしまったようだ。

「えー、良いよ。持つよ? あっちで冷たい飲み物一緒に飲も?」

 中学生相手にナンパのようなことをして、何が楽しいんだろう。見る感じ高校生のようだけど、私みたいな人間に声をかける程にモテないのだろうか? まぁ私に声をかけるようじゃモテないか。

「結構です……急いでるんで」
「えー冷てぇ。そんなつれないこと言わないでさー」
「っ、」

 前を塞ぐように立たれて、強制的に足を止めるしかない。そのままずいっと踏み込まれ、近付く男におのずと恐怖感が湧き起こり、首に下げたネックレスをぎゅっと握りしめる。

「お前、モテねぇだろ」
「あぁ!?――っ!」

 その言葉に男が反応するよりも前に男の首めがけて回し蹴りが入り、男は道端に倒れ込む。急な出来事に慌てて蹴りを入れた人物を見るとそこには柚葉さんと八戒さんが居た。しかも回し蹴りをしたのは柚葉さんの方。

「テメェ!」
「あ? まだやんの?」

 柚葉さんの蹴りに逆上しかけた男は八戒さんの威嚇に圧されてそそくさとその場を去って行く。数分にも及ばない出来事にポカンと口を開けていると「大丈夫?」と柚葉さんから尋ねられ、そこでようやくお礼の言葉が口から出た。

「八戒さんも、ありがとうございました……」
「……」
「あ、ごめんみょうじさん。コイツ奥手でさ」
「はい。前に三ツ谷くんから聞いています。でも八戒さん、やっぱりこういう時は凄く頼りになりますね」
「だろ!? 八戒は最高に格好良いんだ!」

……あぁ、柚葉さんも三ツ谷くんから聞いてた通りのブラコンだ。八戒さんのことを褒めると自分が褒められたかのような反応を見せる柚葉さんに少しだけ笑みが零れてしまう。柚葉さんも、八戒さんもやっぱり良い人だ。

「てかみょうじさん。今から暇?」
「夕方までは予定ないです」
「じゃあさ、一緒にボウリング行かない?」
「ボウリングですか?」
「八戒のヤツがすげぇハマってて。でも私はそんなに興味ないからさ、話し相手になってよ」
「是非!」

 その誘いに乗ると柚葉さんが「ほら八戒、みょうじさんの荷物持ってあげて!」と八戒さんに指示を出す。その声に遠慮の声をあげるが、八戒さんから奪うようにして荷物を取り上げられてしまうので苦笑いを浮かべてお礼を言う。勿論八戒さんからの返事は貰えなかったけれど。



「あーもう! なんでそっちに行くんだよ!」
「だから腕をちゃんと伸ばして、」
「うるさい! 口出しすんな!」

 ボウリング場、レーン前。興味ないと言っていた柚葉さんが今1番熱くなっている。八戒さんのアドバイスを遮り、プンスカ怒り椅子に腰かけて八戒さんの投球フォームをじっと見ている。「やっぱカッケーな」とうっとりしながら。

 当たり前のようにストライクを取った八戒さんと入れ替わりで投げた私は2本ピンを残し、自分の番を終えた。そして再び自分の番がまわってきた柚葉さんはボール選びから始めている。

「あ、八戒さんの待ち受け」
「……」
「三ツ谷くんのこと、大好きなんですね」
「……まぁな」
「!」

 八戒さんが携帯の画面を点けた時、そこにはまさかの三ツ谷くんが居て驚きのあまり声をあげる。またしてもフリーズするだろうと思っていたのに、予想外の反応を貰えて思わず顔を見つめてしまう。

「なんだよ……悪いかよ」
「い、いえっ! 分かります、その気持ち」

 八戒さんの言葉に慌てて出した言葉は紛ごうことなき本音で、本音過ぎたことを後悔したけれど八戒さんの表情が明らかに変わるのが分かった。

「だろ!? タカちゃんは色んなことを教えてくれるカッケー男なんだ!」
「うん、うん。分かります。三ツ谷くん、優しくて頼りになってしかも爽やかで……」
「なんだよ。お前、見る目あるなぁ!」

 ガターを記録し、またしても不機嫌な様子で戻ってきた柚葉さんが「八戒が私以外の女子と話してる……!」と驚くくらいには私と八戒さんは三ツ谷くん談義で盛り上がっていた。

 これまで何を言っても反応を返してくれなかった八戒さんがこうして普通に話してくれる友達になってくれた。これも全部、三ツ谷くんのおかげ。三ツ谷くんは本当に色んな場面で私を良い方向へと導いてくれる。



「夏休み開けても時々3人で集まろうぜ!」
「はい! 是非」

 最終的に私の家まで送ってくれた八戒さんと柚葉さんに手を振り、片付けを終えて座った椅子。ふと思い立って自分の携帯に唯一収められた三ツ谷くんの写真を眺めてみる。前に川遊びをした帰りに疲れ果てて三ツ谷くんにもたれ掛かって寝てしまった場面。そこをエマちゃんに撮られており、後でこの写真を送られた時は驚き過ぎて携帯を投げそうになった程だ。
 今でも刺激が強すぎるので滅多に見返すことが出来ないのだけれど、八戒さんの待ち受けが私の好奇心を擽った。

「や、やっぱ無理……!」

 思い切ってその写真を待ち受けにしてみたけれど、ホーム画面に戻った瞬間キャパオーバーだった。だって、三ツ谷くんにもたれ掛かって寝てるなんて……! しかも……しかも、三ツ谷くんも私に寄り添うように寝てるなんて……! む、無理……! 見れない……! 恥ずかし過ぎる! 直ぐに元々設定していた画像に戻し、バクバク鳴っている心臓を押さえ落ち着かせる。

「……会いたいなぁ」

 でも、画面越しでも顔を見てしまったら会いたいって思う。会って、たくさん話をして、笑い合って、その度に好きだって思いたい。

「三ツ谷くんに会いたい」

 夏休みがもう終わる。そしたらまた三ツ谷くんに確実に会える日々がやってくる。夏休み、やっぱり今日で終わんないかな。
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