※よそ見がヘタなふたりです

 本当にマイキーさんとケンチンさんを置いて出発したツーリング。行先は海浜公園だという。行き先が海の方面なので段々と潮の匂いが鼻腔を擽りだす。

 5月に入ったばかりだから海開きはまだだけど、7月中旬になったら沢山の人で賑わうそうだ。いつか部長と海、行ってみたいなぁ。前に一瞬話題にはなったけど、結局約束までは出来てない。

「みょうじさん。長時間乗ってたけど、疲れてねぇ?」
「大丈夫です! 部長こそ運転ありがとうございました。……海風、気持ち良かったです!」
「だろー?」
「はい! それにしても皆さん、本当に仲良しですね」
「まぁな。会う約束もしてねぇのに、大抵コイツらと一緒に居るわ」

 先に辿り着いていた場地さんたちは海鳥を追いかけたり座りこんで駄弁ったりしている。みんな、やってることは普通の中学生男子って感じだ。やっぱり部長がつるむ相手だ。カツアゲなんてダサいこと、絶対しないんだろうな。

「アイツらのこと、みょうじさんが気に入ってくれてホッとしてる」
「見た目はやっぱり怖いですけど、皆さん良い人そうだし、好きですよ」
「そっか。それなら良かった」

 右側に座る部長を見ると、部長の顔つきも穏やかで。東卍メンバーのこと、本当に大好きなんだなぁ。嬉しそうな部長を見て、私も嬉しい気持ちになっていると部長と目が合った。

「ん?」
「えっ、あっ……ぶ、部長のピアスっ! お洒落ですよね!」
「あ、これ?」

 見つめていたことに気付かれないように慌てて話題を変えると部長がピアスに指を当てる。片方にだけっていうのがお洒落感を倍増させてる。というか、部長がやること全部様になってるんだよなぁ。今日の服装もセットアップでお洒落だし。格好良い。

「みょうじさんは耳開けねぇの?」
「私はちょっと……怖いかな」
「そっか。じゃあ耳開けたらなんかプレゼントするよ」
「えっ、ほんとですか!?」
「おう。開けたくなったら言ってな。いつでも開けてやる」
「どうしよう、開けたくなってきました……」
「はは。みょうじさん単純」

 部長が笑い声をあげるのと同じタイミングで「やっと着いたー」とマイキーさんたちが姿を現す。そしてマイキーさんの姿を見るなり向こうで駄弁っていた場地さんたちが「おい、コール対決しようぜ」と声をあげている。

「おっ、良いな。負けらんねぇ」

 その声を受けて各々が燃えている。それは部長も同じようで、遅れて来たマイキーさん達と一緒に向こうに歩いて行った。あ、本当にマイキーさんとケンチンさん仲直りしてる。……良かった。みんな楽しそうで。

「なまえちゃん」
「あ、エマちゃん。さっきはありがとう」
「ううん。マイキーとドラケンはいつもああだから」
「ドラケン……?」
「うん。マイキーは“ケンチン”って呼んでるけど、ドラケンは皆から“ドラケン”って呼ばれてるの」
「そうなんだ……! 私も呼び方変えないとだね」
「うん。そうしてあげて。ドラケン本人も“龍宮寺堅”で“ドラケン”だっていっつも言ってるから」
「りゅうぐうじ……名前格好良いんだねぇ」
「でしょ? ドラケンはすっごく格好良いの!」

 ぽおっと頬を赤く染めているエマちゃん。その視線はドラケンさんに向かっている。あれ……エマちゃんもしかして。

「ドラケンさんのこと、好き?」
「うん! 大好き!」
「カワッ……」

 満面の笑みを浮かべて大好きと言っているのはドラケンさんのことなのに、何故か私が照れてしまう。その可愛さに絶句しているとエマちゃんの顔つきがにんまりとしたものに変わっていく。

「なまえちゃんも三ツ谷のこと好きなんでしょ?」
「えっっ」

 この短時間の間に見抜かれる程私は分かり易いの……? どうしよ、そんなんだったら部長にはとっくにバレてるんじゃ……。

「部長……迷惑に思ってるかな?」
「ええ、なんで?」
「だって……部長モテるだろうし、こういうの、うんざりしてたり……」

 萎む言葉をエマちゃんが「ないない!」と笑い飛ばす。……でもやっぱり不安だ。部長だってもっと可愛い子に好意寄せられた方が嬉しいに決まってる。

「三ツ谷って海行ってもギャルに目もくれないんだって」
「え、い、意外……!」
「でしょー? まぁその話してたドラケンもそうだったらしいんだけどね」
「ドラケンさんは……慣れてそう」
「だからそんな三ツ谷がこうしてなまえちゃんを後ろに乗せて来るってことがウチらからしたら驚きなの」
「……部長も、嫌いな人は乗せないって。……ちょっとは安心しても良いのかな」
「安心もなにも! そんなの特別扱いじゃん!」

 きゃあっと嬉しそうな表情を浮かべるエマちゃん。女子とこうやって恋バナで盛り上がるのなんて、初めてだ。中学生になった途端色んな初めてが起こるなぁ。それは全部、部長のおかげ。

「いつか両想いになれたら嬉しいなあ……」
「なまえちゃんなら大丈夫だよ」
「ありがとう、エマちゃん。エマちゃんも可愛いから、きっと大丈夫」
「一緒に頑張ろっ!」
「うん!」

 エマちゃんと笑い合って、向こうでコール対決を行っている男子を見ると丁度部長の番だった。コールの上手い下手なんて良く分からないけど、周りの男子が悔しそうで、それでいて羨ましそうな声をあげているので、多分部長はコールが相当うまいんだと思う。

「部長って何でも出来るんだなぁ」
「格好良い?」
「うん、すっごく格好良い」
「三ツ谷ーっ! なまえちゃんがねー!「わーっエマちゃん! わーっ!」

 エマちゃんの声を慌てて制すると向こうに居たマイキーさんが「格好良いって?」と言葉の続きを言ってしまう。ちょっと兄妹……! 以心伝心やばい!

「しかもすっごくだって!」
「あ、もうっエマちゃんっ!」

 エマちゃんの声に向こう側で野太い声が湧き上がる。「優勝賞品なまえちゃんのチューが良いんじゃね!?」ととんでもない言葉まで飛び出している。いや待って下さい皆さん! そんなの賞品でもなんでもないですっ。

「うるせぇ! 約束通りジュースだバカヤロウ!」

 声を荒げる部長なんて普段の部活動では絶対に見れない。なんか、年相応の男子だ。……あぁどうしよう、そういう姿も好きって思っちゃう。
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