1st anniversary Dedicate to you.

「えっと……なんで、私なん?」

 目の前に居るのは同じクラスの北くん。今しがた北くんの口から出た言葉に私は吃驚して。そして、疑問を投げかけたとこ。

「こないだは休んだ人のノートやらプリントやらを纏めてやりよったやろ。それに、自習の時間もだらけんとちゃんと勉強しよった。そういう、誰も見よらんとこでもちゃんとしとうみょうじさんがええなって、思うて」

 “そうなんや……”て返したかったのに、口をその形にしても、うまく音は出てくれんくて。人間吃驚すると声が出んていうんは、ほんまらしい。

「せやけど、俺自身部活で忙しいし、みょうじさんとどうなりたいとか、そこまでは求めてへん。ただ、この気持ちは抱えとうだけやないできちんと昇華せんとって思うただけやから。せやから、返事は出来たらでええよ。昼休みに時間取らせてすまんな」

 北くんはそないな事を涼しい顔をして言う。そんで、やけにスッキリとした顔をして「ほな行くわ」と踵を返し、体育館裏から立ち去ろうとしとって。

 え、いやいや。私今北くんから告白されたんよな!? 北くん今私に“好き”って言うたよな? それって結構一大事やと思うんやけど……? なんでそない凛々しい顔貫き通せるん? 普通、告白する時て、もっと顔真っ赤にしたり、口籠ったりするモンなんとちゃうの?……や、告白した事無いから分からんけど。やっぱり、北んくんは凄いなぁ。

「北くんは、こないな時でも緊張とか、せんのやな……」

 歩き出した後ろ姿にポツリと感想を呟くように言葉を吐き出す。その声は北くんの耳にまで届いとったみたいで、両足を綺麗に揃えた状態で私の方を振り返る。

「緊張?」

 緊張、とは? という様な顔で私を見る北くん。まさか、今まで緊張した事無い……、とか?

「凄いなぁ。素直に尊敬してまうわ……」
「悪い、話の意図が掴めてへんのやけど……?」

 少しだけ眉根を寄せる北くんに私は肩に入っていた力が抜けるのが分かった。ほんまに不思議そうに私を見る北くんはめっちゃ可愛い。きょとん、ってしとう。可愛い。

「さっき北くんが言うてくれた私の良い所な、あれ全部北くんに憧れてやった事なんや。初めて北くんを見た時に、“どれも全部ちゃんとこなして偉いなぁ。北くんみたいになりたいなぁ。”ってそう思うた。そんで北くんの真似する様に色んな事やって。そうすればする程北くんの凄さを実感して。尊敬して。いつの間にか意識するよりも先に北くんの事目で追う様になって。そんな北くんに“話がある”とか言われたら、緊張してまうやん。心臓ギュンってなるやん。そしたらまさか北くんが私を好きとか……。嬉しいで信じられんくて。でも、北くんはこないな状況でもいつも通りやから……。やっぱり凄いなぁって」

 そう言うと、北くんは何かを考えるように視線を下に向け、逡巡する様になる。北くんのこういう表情はちょっと新鮮や。私の言うた事、そこまで理解するん難しい事なんやろか……? 北くんの出来の良い脳味噌の思考回路に興味を示した所で、北くんの顔がぱっと上を向く。

「俺、多分、今結構緊張しとんと思う」
「へっ?」
「みょうじさんを見る度にええなって思うとった感情が“好き”って名前なのは、分かってた。何度か経験した感情やったし。そやけど、みょうじさんに告白しようって決めて、行動に移した今この瞬間の感情は何て言うんやろうってずっと不思議やった。……でも今みょうじさんから聞いた気持ち、俺も全部同じや。せやから、この気持ちを“緊張”っていうんやろな」

 凄いなぁ。“緊張”って感情にここまでの理解をせんといかんのか。それ程までに北くんは“緊張”とは程遠い生活やったて事やんな。せやけど、その緊張をさせたのは他でもない、私なんやって思うと、私は何ともいえない気持ちがせり上がってくる。……この感情に名前を付けるんやったら――

「……ほんなら、私が“はい”って答えたら、その緊張、どうなる?」
「どっかに行くんやろうな。そんで、“嬉しい”って気持ちが変わりに入ってくると思うわ」
「そっか。……北くん。多分それ、私と同じ気持ちやわ」

 北くんが笑う。つられて私も顔が綻ぶ。好きな人と同じ感情になれるって、幸せな事やな。

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