愛すべき結果

 窓を開けて過ごす事が増えた日々。北とみょうじは今でも変わらずにお昼休みを2人でゆっくりと噛み締めるように過ごしていた。

「髪、そろそろ切るか結ぶかせんとあかんなぁ」
「みょうじさんの髪、好きやから切らんで欲しいわ」
「そう? 北さんがそう言うんやったら明日から結んでくるわ」

 付き合うようになったといっても、2人の距離はそこまで変わらない。北にとっては今年が最後となった春高も控えているし、みょうじにとっては受験が控えている。そんな中で付き合うといっても特に大した事は出来ないのが現状で。それでも2人はこうして過ごすお昼休みやふとした時間も大切に過ごせればそれで良いと思っている。

 いつの日か侑に「長年連れ添った夫婦感ハンパないわ」と笑われた事もある。そんな侑のからかいでさえも心地よく、受け流せる程、みょうじとの交際は落ち着いている。そしてそれはみょうじも同じなようで、北がみょうじに侑に言われた事をそのまま伝えると「北さんと私、もうそんな熟年感出てんの? 笑えるなぁ。まぁ、嬉しいんやけど」と笑っていた。
 そして「いつか、私がボケてしもうてもちゃんと手ぇ繋いで一緒に歩いてな?」と握った手を見つめてみせた。そんなみょうじに愛おしさを感じた事を北は、窓から吹いてくる風に髪を靡かせながら心地よさそうに陽だまりを浴びるみょうじの横顔を見つめながら思い返していた。

 他愛も無い会話を続ける時間。北にとってはこの瞬間が1番大切な時間になっている事を感じていた。

 そんな時、控えめなノックと共に尾白がドアから顔を出して連絡事項を告げに来る。

「話し中に水差してごめんな。さっき俺職員室行ってんけど、今日の部活、先生来るの遅れるらしいから、先に始めとってて言われたわ」

 その報告を受けた北は皆に連絡を回しに行こうと席を立つが、それを尾白によって制される。

「あ、ええんよ。北はここに居ってや。俺が皆に伝えるから。んなら、みょうじさん。ごゆっくりやで」

 何故かドヤ顔でそんな言葉を言いながらそそくさと教室から去っていく尾白に2人してキョトンとしてしまう。

「アイツ……なんであんなに張り切ってんやろな?」
「なんかな、“みょうじさんと、北が付き合うてなった事が友達の俺はもの凄い嬉しいんや! やから、2人の時間をゆっくり味あわせたい!”とか言うてたで。教室で」
「はは、なんやねんアイツ。どこぞの目線や」
「な。まぁでも尾白くんがあないに面白くて優しい人て、北さんに出会わんやったら私、気付けへんやったんやもんなぁ」
「それは何よりや」
「今ではすっかりバレー観戦出来る日が楽しみになってるしなぁ」
「みょうじさんにとって、バレーがそういう存在になったんは俺としても嬉しいな」
「ふふ。もう充分、私にとっても有意義なモンになってんで。バレーも。北さんも。尾白くんもツムサム兄弟も。自分の意思で好きやって思てる」

 そう言って笑うみょうじの瞳はいつもと変わらない凛とした強さがある。その瞳はいつ見ても綺麗だ。

「俺、あん時も言ったけど、みょうじさんに付き合うて欲しいて言ったん、あれっていわば“結果を求める行為”やんか。前までの自分やったら考えられへんやった。せやけど、いつかみょうじさんと話した時に気付かせて貰うた、“結果も大事”て言葉。それであん時結果を求めて、今こうしてみょうじさんと2人きりの時間を過ごす権利に繋がってんのやて思うたら、あの言葉が身に沁みてるてみょうじさんと一緒に過ごす度に思うわ。ほんまに、気付かせてくれて、ありがとう」
「私もやで。北さんのおかげで自分がやってきた事に自信持てたし、間違うてへんて、胸張って思えるようになったんや。ちゃんとやってれば、見てる人は見てるて北さんが言うてくれたやんか。私にとって、ちゃんと見てくれてたんは北さんなんよ。間違うてへん事を続けて来たその過程の結果が北さんなんやったら、私は幸せもんや。私の方こそ、ほんまありがとう」

 1人は副産物に過ぎないと思っていた結果を愛おしみ、1人は悩んでいた自分の過程を愛おしむ。そしてそんな2人が出会って、お互いの事を愛おしいと思う。

 これ以上に大切だといえる結果は後にも先にも出てこないだろうと、北は愛おしい自分の彼女を見つめながら、じみじみと思った。

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