君の愛はチクチクするね

 本人が嫌っているものを、ここぞとばかりに責め立てるのは倫理的に駄目なのだろうか。例えそれが私自身も嫌だと思っていることだったとしても。グッと耐えて、何食わぬ顔で接するべきなんだろうか。

「おい。なんだよその暗くて棘ついた感情は」
「別に、なんでもないよ?」

 例え、こちらが一生懸命に隠している感情をこうして見抜かれたとしても。それでも口ではなんでもないと言ってあげるべきなんだろうか。

「ねぇカゲ。好きだよ」
「は? ンだ急に。きめー」

 例え、私が本当に思っていることを頑張って言葉にしてみても。照れもせず、慣れた様子で往なされたとしても。それでも「ひどいなぁ」って笑っていないと駄目なんだろうか。

「……おい、ほんとにどうした?」
「……別に……、」

 別になんでもないよ――ってもう言えない。恋愛関係においてどちらか一方の我慢が続けばそれは致命的な傷になってしまう。私はまだカゲとの関係を終わらせたくない。まだたくさん好きだから。

「なまえ。ちゃんと言え」
「……ちゃんと言えって言うけどさ、」

 どうせ隠したって感受されてしまうんなら。この際ぶちまけてしまえ。

「カゲは良いよね? 私がカゲをどれだけ好きか、言わなくても感じれるんだもん。その点私は分からないんだよ! カゲじゃないから。だから、もっと、ちゃんと言葉とか行動とかで示して欲しい!」

 言った後に襲ってくるのは達成感とは程遠い鋭利な痛み。ズクズクと胸を蝕んで、急速に指先が冷えてゆく。例えるのなら“後悔”と呼ぶにふさわしい感情。まだ終わらせたくなくて、思うがままを口にしてみたけれど、もしカゲが面倒くさいって思ったら? それこそ致命的な傷なんじゃないか。

「ごめっ、」
「ハァ……」

 深い溜息がカゲの口から出た。あ、これヤバイ。ダメなヤツじゃん。どうしよう。なんで言っちゃったんだろ。

「あー。待て待て。ンな感情になるな」
「え?」
「俺のサイドエフェクトだってンな万全なモンじゃねぇ」
「カゲ?」
「言って貰わねぇと分かんねぇ部分だって沢山ある」
「そ、うだよね。ゴメン……」
「だから。……俺もゴメン」

 え。あのカゲが謝った……? 小競り合いでさえ謝ったことのないカゲが? うそ、信じられない。

「なまえからの感情は確かに痛いくらい感じとってた。だからなまえの言う通り、それに甘えてた部分もあったと思う」
「うわ、カゲが素直……健気……ちょっとキモ「おい」……ごめん」
「……だからその、アレだ。俺も、同じだ」

 アレって言ってるけど、カゲ。それアウトだよ。その思いを内に秘めて目線を送ると、サイドエフェクトで感じとってくれたらしい。またしても視線をズラしながら「好きだ」と小さく言葉にしてくれた。
 ねぇカゲ。ちょっとズルくない? たった3文字で私の心が狂喜乱舞してるんだけどど。なんなの。セコイ。ムカつく。

「は? なんで怒ってたんだよ」
「ずるいから」
「あ? ずるい?」
「これからは私も言葉にするの止めてみる」
「ハァ?」
「だってそうしたら、たまに出す“好き”がご褒美になるでしょ?」

 そうやって言えばカゲは思いっきり溜息を吐いて鼻で笑ってきた。うっわ、ムカつく。その余裕なカンジ。

「好きにしろよ。ま、なまえがあんだけの感情、口に出さずにいられるか見ものだけどな」
「うっ……やっぱズルイ」
「はっ。仕方ねーだろ。持って生まれたモンなんだからよ」
「……ねぇカゲ。今、サイドエフェクト持ってて良かったって思ってるでしょ?」
「ほぉ。すげぇじゃねぇか。エフェクトなしでも察せたな?」
「〜っ! むかつくぅ! 格好良いかよ! ハラタツ!」

 そう言って胸をポカポカ叩いたら、その手を捕えていきなりキスしてくるもんだから。なんかもう、格好良いも、ムカツクも、ズルいも言えなくなってしまって。
 一瞬にして真っ白になった脳内は、その空白を埋めるように“好き”という感情を溢れさせる。

「……好き!!!!」

 やっぱり、サイドエフェクトを持ってることも含めて全部。ぜーんぶのカゲが大好き。

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