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「大地! お願い! 教科書貸して!」
「お前忘れ物多過ぎ」
「ごめんって! ちゃんと返すから!」

 私の幼馴染。澤村大地。家が近所で、親同士がご近所付き合いを重ねるうちにいつしか私達はずっと一緒に居る事が普通になった。高校も、特に行きたい場所は無かったけど、大地が“烏野に行く”って言ってたから、私も烏野を選択した。そこに関しては別に後悔してない。良い学校だし。烏野。それに、大地と一緒の高校だから時間が合えば一緒に帰ったり出来るし、宿題教えて貰いに家に行ったり出来るし。

「まったく。しっかりしなさいよ」
「わー! ありがとう!」

 忘れ物とかの抜けが多い私と、バレー部の主将を務めるしっかり者の大地。

「授業中寝るんじゃねぇぞ〜!」
「はあい!」

 ある意味良いバランスだと思ってる。



「大地!」
「ダメだ」
「まだ何も言ってない!」
「どうせお願い事だろ」
「そうなんだけど! 聞いてから拒否して欲しい!」
「……なんだよ」
「今度の日曜日、別の高校に居る友達と出かけようってなってるんだけど、そこに大地も来て欲しい!」

 大地を呼び出して、廊下の片隅で2人で小さな声で話す私達は傍からしたら凄く怪しいだろう。でも、あんまり大声では言いたくないんだもん。小さな声を拾う為に少しだけ屈んだ大地の体が元の位置に戻る。視線がいつも通りの高さになった大地の瞳がジト目に変わる。

「なんか企んでるだろ」
「じ、実は……、その友達が彼氏連れて来るらしくって……。私も彼氏連れて来てって言われてるんだ」
「なまえ彼氏居たっけ?」
「居ないよ! 居ないのに、勝手に彼氏居るって思われてて! はじめは2人きりで遊ぶ予定だったのに“Wデートしよう!”って言い出して。勝手に話が進んじゃって……。だからお願い! 大地、一緒に来て!」
「……」
「一生のお願い! 実際に会った時に彼氏じゃ無いって説明はするから! 大地に嘘吐いて貰うような事にはならないから! ね? ダメ?」
「一生のお願いは無理だ」

 両手をあわせて大地を拝む。だけど、大地の返事は珍しく拒否で。“一生のお願い”はダメって。

「じゃあお願い!」

 揚げ足を取るように“ただのお願い”に降格させてお願いしてみる。って、ダメか。大地はこういうの、嫌いだろうし。

「分かったよ。で、何時に行けば良いんだ?」
「えっ」
「なに」

 なにって。まさか、ただのお願いにしたら聞き入れてくれるパターン?

「いや、だって。大地、こういうの嫌いなのかなって」
「別に。一緒に遊び行けば良いんだろ?」
「そ、それはそうだけど。良いの?」
「ああ。良いよ。別に。今週の日曜日は体育館点検日で休みだし」

 意外とすんなりと受け入れてくれる大地にホッとする反面、疑問も沸きあがる。

「ねぇ、なんで“一生の”を付けたらNG出したの?」

 お願いする内容は変わらないのに、“一生の”を付けるとダメって。なんで? こんな所で“一生”を使うなって事? でも、大地なら私がここで“一生”を使っても、またすぐに“一生のお願い!”って言う事くらい分かってそうだけど。

「もう聞き入れてるからな」
「えっ?」

 大地の言葉はまた新たな疑問を呼ぶ。聞き入れてるって? いつ? いつ使ったんだろ? そして、大地はそれを律儀に覚えてるの? まぁそこが大地らしいんだけど。ま。でもいっか。今回のお願い事も聞き入れてくれるんだし。

「じゃ、お昼に駅で集合ってなってるから! 準備終わったら大地の家に行くね!」
「おー。了解。なまえ、寝坊すんなよ」
「大地お願い。起こして!」
「……まったく、お前は。……何時に起こせばいんだ?」
「んー、前の日に連絡する!」
「はいはい」
「ありがと、大地!」

 大地と出かけるの、久しぶりだなぁ。ちょっと、いや。結構楽しみだ。



「まったくなまえは……。あの忘れっぽさ、どうにかなんねぇかな」
「なになに? またみょうじの頼み事引き受けてんのか? 大地は本当にみょうじには甘いよな?」
「まぁ、幼馴染だからな」
「本当にそれだけ?」
「なんだよ、スガ。なんだ、その目は」
「ん?? べっつにぃ〜?」
「……明らかに楽しんでるだろ」
「え? なんで分かったんだ?」
「ったく」
「でも大地も顔緩んでるぞ?」
「うるさい」
「はははー」
「棒読みで笑うなっての」

* * *

「ねぇだいち!」
「なんだ? なまえ」
「おっきくなったらなまえと、ケッコンしてくれる?」
「けっこん? 俺でいいのか?」
「うん! だいちがいい! ね、いっしょうのおねがい!」
「おう! わかった!」
「えへへ。やくそくだよ? ぜったい、まもってね!」
「まかせとけ!」



* * *


 なまえ。俺はな、他のお願い事ならなんだって叶えてやる。叶えてやりたいって思ってる。だけどこの約束だけは、絶対に叶えてみせるからな。これは俺の願い事でもあるんだ。だから、いつか、思い出させてやるからな。

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