「まるでバカップルだべ」 byスガ

「でなっ! ここからが本題な!」

 いやだから俺も昨日それ見たって! と誰かの笑う声がする。そしてその反応を受けて「見ててももっぺん見ろ!」と返すスガの理不尽な声も。

「“私はアナタじゃないと嫌っ!”はいここでハグ! バックハグ!! ブリュンヒルデ玲子のバッグハグ! 決まった……!」

 そんなプロレス技みたいにしてなかったよね? と昨日の恋愛ドラマを思い出してみるけれど、スガの手にかかればあれもそうなるらしい。案の定周りの生徒はおかしそうに笑っている。

「大地は見た? 昨日の」
「んー? いや、見てない」
「そっか。あれ面白いのに」
「俺あんまりそういうの分からんしなぁ」
「まぁ確かに」
「なんだよ確かにって」

 後ろの席でカリカリと授業の復習をしている大地に頷くと、大地の顔がムスっとする。いや、自分で言ったんじゃんという意思表示を表情でしてみるとワザらしい溜息を吐かれた。
 大地と付き合う様になって数ヶ月。はじめはみんなを引っ張るリーダーっぽい性格に惹かれていって、目で追うようになると大地の分け隔てない優しさに気が付いて。
 好きという感情を抱くのにそんなに時間はかからなかった。

 それからスガに相談して、スガの手助けもあってめでたく恋人関係になって分かったこと。大地はモチロン優しい。だけど、それは例外もあるってこと。

「大地ー」
「どした?」
「数学の教科書、持ってる?」
「おう。持ってるぞー」
「悪いけど、貸してくれないか?」
「お前なぁ」
「ご、ごめんって」

 他の人だったら多分、「おう、良いぞ」ってすんなり貸してる。だけど、相手が東峰くんだったら話が違う。東峰くんって見た目凄く怖いのに、大地は全く臆してない。それどころか、東峰くんのが怯えてるように見える。

「ったく。3年なんだからもっとしっかりしろ」
「……うっす」

 しょげんと肩を縮こませて自分のクラスへと戻って行く東峰くんを笑いつつも、どこか羨ましいと思う。大地は全方位に優しい。だけど、その例外に居るってことは他の人よりも大地の近くに居るってことだから。……だからといってあんな扱いはちょっと嫌だけど。

「なぁなぁ! みょうじも昨日の見たべ!?」
「うん、見たよー」
「あのバックハグ、超良かったよな!」
「うん。良かった」
「だろ!? あれ、大地にやってみ!? 大地なんかイチコロだべや」
「おっ、大地さんやってみます?」
「やめなさい」
「あだっ」
「て、スガもスガだぞ。なんだよ“俺なんか”って」

 未だにブリュンヒルデ玲子の技の絶大さを説いていたらしく、その話題は端に居た私にも降りかかって来た。そうしてその話題にノろうとした私に、大地の冷徹なチョップが降ろされる。

「まったく。アイツ自分が受験生ってこと忘れてないか……。なまえもなまえであんな小学生みたいなノリにノらない」
「ふへへ」
「……ど、どうした?」

 大地が懇々と説教しているのにも耳を貸さず、にやにやとしていると大地の顔がひるむ。

「さっきので頭痛めたか?」
「あはは、そうじゃなくて」

 あまりにもニヤニヤしてるもんだから、大地が本気で心配そうな口調で尋ねてくる。違うよ、あんな優しいチョップで壊れる程私の頭は弱くないよ。そんなの大地だって知ってるでしょ?

「大地は基本的にみんなに優しいじゃん?」
「……そうか?」
「うん。その大地から叱られるの、ちょっと羨ましいって思ってた」
「え? なんで」
「だって、なんか壁がなくなったような気がするんだもん」

 思ったことを素直に告げると大地の顔はやっぱり難解な顔をしている。だけど、これは私の本心。いくら引かれたって、隠しようのない事実なんだもん。

「そりゃなまえはほかの人とは違うべ」
「うん、なんか実感できた」
「モチロン、スガとか旭とかとも違うぞ」
「?」

 今度は私がハテナを浮かべる番。私はスガや東峰くんと同じ距離間にまで来れた気がしてたけどな。

「アイツらには可愛いなんて感情、抱かねぇ」
「わっ……」
「……なんだよ、」
「だ、大地がデレた……! 超貴重なんですけど! スガに言わなきゃ!」
「あっおい! コラなまえ!」
「わーっ、大地が怒った〜!」

 顔を少し赤く染めて私を怒る大地。怒って貰えることが嬉しいって思うのも事実だけど、やっぱり私は、恋人としてトクベツな言葉を貰えることの方が何倍も嬉しいみたい。

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