君は俺のもの

 楽しかった大学生活もあと少しで終わる。就職決まるといいなぁなんて漠然とした私とはうらはらに、大地は警察官を目指して日々奮闘中。

 大地なら絶対なれる。だって制服姿の大地、私想像できるもん。……彼氏が警察官って、どうしよう。みんなに自慢出来るよね? あ、でも。社会人としてバリバリ仕事する大地も自慢出来るかも。それに今みたいにバレーに打ち込む大地だって。あぁどうしよう。大地っていつでも最高に格好良い。

「なまえさんマジで良いんですか?」
「もちろん。それに私だってシフト変わって貰うし」
「アザッス! これで彼女とのデート行けます!」
「うん。楽しんで!」

 大地のことをニヤニヤと考えていると、後輩くんの拝むような声が現実に呼び戻した。デートとバイトをブッキングしちゃうとは。後輩くんも中々抜けてますな。まぁそのおかげで、大地の試合行けるようになったんだけど。

 悲壮感溢れる声で電話がかかってきた時は何事かと思ったけれど、理由を訊いて笑いながら承諾した。モチロン、その代わり……とこちらも条件を出した取引だけれど。



「あ、今度の試合観に行けるようになったよ」
「マジか。バイトは?」
「交代して貰った」
「そっか。1番忙しい時期だってのに、ごめんな」
「ううん。交換条件だったし。……でもさすがに不釣り合いだったかな〜って」

 数日後。自宅を訪れていた大地に試合に行けるようになったことと、今手元で捏ねている生地の理由を明かす。取引にしてはこちらに分があり過ぎるかと思って、お詫びとしてクッキーをあげようと思ったのだ。それに、これだったら他の皆にもお裾分けできるし。

「へぇ。甘さ控えめか」
「うん。相手男の子だし。あんまり甘いの、大地も駄目でしょ?」
「うん。まぁ」

 見上げた先の大地は生地にだけ目線を注いでいて。そんなに食べたかったのかな、なんて思いつつ、私もクッキー作りに勤しんだ。



「はいコレ。今度代わって貰うお礼」
「えっ! いいんスか!?」
「うん。次のシフト、忙しいだろうから」
「やった! 俺、頑張ります!」
「ふふ。うん。彼氏も“丁度良い甘さだ”って言ってたから。多分大丈夫だと思う」
「あざっす!」

 嬉しそうにクッキーをバッグに仕舞う後輩くん。なんか可愛いなぁ。喜んでもらえて良かった。
 後輩くんの姿を見ながら笑みを浮かべ、髪の毛を結おうと鏡へと向いた時。

「ん? なまえさんソレ……」
「へっ……えっ!?」

 後輩くんに指摘された場所には虫刺されのような赤い跡。…………これって……。えっ、嘘っ。えっ!? 今までこんなのつけられたことないのに。えっ、なんで……?

「なまえさんも愛されてますねぇ〜っ」
「ちがっ、そんなんじゃっ……え、これ……えぇ……」

 大地の唐突なマーキングに脳内はパニックだ。どうしよう。ギリ隠れるか隠れないかみたいな場所だし。なんでこんなこと……。
 そこまで思って、思い浮かんだのはあの時の生地を見つめる大地の顔。……もしかして。も、もしかして……。“相手は男”って言ったのが原因……? てことは、嫉妬……?

 し、知らなかった……。大地にこんな独占欲があったなんて。……どうしよう。ちょっと嬉しいとか思っちゃってる。私、これからバイトなのに。ねぇ大地、このキスマークどうやって隠したらいいの。

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