また満ちる

「好きです」

 私の最大限の勇気を以て臨んだ告白。それに立ち会った月島くんの言葉は「なんで?」だった。

「なんで、と言われましても……」
「僕とみょうじさん、接点ないでしょ」
「そ、うなんだけど……」

 接点が無いと人を好きになっちゃいけないのか。そう言い返したくもなったけど、言えなかった。

 私は本気で月島くんの事を好いている訳では無いから。



 私は今まで誰かと付き合った事が無い。小学校では良いなと思う男子が居ても、付き合うという思考はまだ持ち合わせていなかったし、中学は中学で付き合いたいと思える男子が居なかった。そうして迎えた高校生活。私の認識は周りよりも遅れている事を知った。

 各地域に住む同い年のクラスメイトはそれぞれの地域が持ち合わせていた独特のルールや、流行などを話し合って盛り上がる。それには私も積極的に話に加わる事が出来た。問題は、恋愛に関しての話だ。

 聞くところによると皆中学生になった段階で誰かしらと付き合った経験を持ち、なんなら今でも他校の学生と合コンをする計画まであるという。

 皆、恋愛に関心を示している。その事が私を焦らせた。今までそこまで重きを置いていなかった事柄に皆が大いに関心を持ち、経験を積んでいる。それに対して私は見事なまでに何にも知らない世間知らずだ。

 たちまち私の中でそれがコンプレックスとなり、私も早く誰かを好きにならないと、と焦った私は、クラスの中で良く名前が出る“月島蛍”という人物に興味を示した。

 月島くんは隣のクラスに在籍する背の高いメガネ男子だ。顔立ちも整っていて、成績も優秀で、おまけにスポーツ万能。その高スペックさから女子の間で人気を博している。

 谷地さんに「月島くんってどんな人?」と訊くと、「月島くん? うーん、日向たちを見る目は時々怖いモノがあるけど、それでも、バレーをしてる時は凄く楽しそうだし、ああみえてバレー大好きって感じかな?」という返答で。結局、バレー以外での月島くん像は分からずじまいだ。

 けれど、悪い人では無いらしい。どうせ付き合うなら……、そんな思いと焦りが相まって、私は月島くんがどういう人なのか良く知らないまま、勢いで告白に至った。

 その結果、月島くんから冷めた目で見られるはめになっている。言えない。“ワンチャン狙ってみました”なんて。どうしたものか……。何か打開策を……。ぐるぐる思考を巡らせる私に「ワンチャン狙って告白とか良くされるけど。それってホント良い迷惑なんだよね」と私の短絡的な考えを見越したように先手を打たれてしまう。

「……ごめん。私、今まで誰かと付き合った事無くて。それがコンプレックスで焦って、女子人気が高い月島くんにこんな事しちゃった……。よくよく考えると、結構向こう見ずだね、私。本当にごめん」

 こうなれば何をどう繕っても意味が無いと悟った私は、行為に至るまでの過程を白状して謝罪する。告白して、謝るなんて。1人2役も良い所だ。自分が恥ずかしい。情けない。

「僕は、ようやく少しはバレーが楽しいカモって思えるようになった所なんだよね。だから、今はそれ以外に時間を割く余裕は無いんだ。でも、誰かから好意を伝えて貰う事は、別に嫌じゃ無い。だから、嘘でもありがとう」
「そんな……! 私こそっ、時間取らせちゃってごめんねっ」

 嘘じゃ無いと言えない事が悲しかったけれど、それでも、私が慌てて謝りをいれると月島くんは少しだけ表情を和らげてくれる。

「みょうじさんも、早く出会えると良いね。そういう人に。じゃ、僕はこれで」

ポケットに手を入れて立ち去ろうとする月島くんに、私は声をかけてその足を止める。

「つ、月島くん!」
「なに?」

 次に出そうとしている言葉は何故か“好きです”の4文字よりも恥ずかしくて。スカートの裾をキュッと握る。

「も、もしも! 私が、本当に月島くんの事、好きになったら! その時はまた! 告白しても良いですかっ!」
「……お好きにドーゾ」

 私の上擦った声に、可笑しそうに笑う月島くん。その姿は人づてなんかじゃなくて、私の心がちゃんと格好良いと感じた。

 月島くんの事、ちゃんと知りたい。もっと知りたい。知った上で、もう1回告白しよう。

 その時は“なんで?” って質問にも胸張って答えられると思うから。

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