サービス

 女子の制服はスカート。冬とか寒くて、嫌になることももちろんある。だけど、私はどれだけ寒くてもスカートを履いていたい。

 だって、大地が“なまえの制服姿可愛い”って照れながら褒めてくれたから。だから私はどれだけ寒くても毎日スカートを履いていたい。

「生足は心臓に悪い」

 移動教室に向かう最中、隣を歩く大地が眉根を寄せてそう言った。生足って。別に超ミニスカートとかでもないのに。それに大地の為にタイツも履かずに頑張ってるんだよ? 彼女から彼氏へ贈るサービスなのに。……こんなこと言ったら大地はもっと怒るだろうな。

「タイツとか。そういうの履かないのか?」
「えー? でも大地が、」
「俺が?」

 むすくれたまま言い訳を口にしようとすると、やっぱり大地は目つきを尖らせた。こういう時、先生から叱られている子供みたいな気持ちになるんだよなぁ。……全部大地の為に頑張ってることなのに。

「大地が……喜ぶかなって」
「そ、そりゃ……、」

 上目遣いで大地を見つめると、途端に口をパクパクしだす大地。「そりゃ、なまえは……」まで出して、そこから口籠るから。ここから一気に形勢逆転だ。

「私が?」

 じっと見つめる。大地は頬を赤くする。あーやっぱり可愛い。早く言って欲しい。「なまえは……可愛い、べ」……そうやって必死に伝えてくれる大地のが何倍も可愛いから。

「でしょ? だって大地に可愛いって思って貰いたくて頑張ってるんだから」
「でも……、」
「髪の毛も、メイクも、服装も。ぜーんぶ、大地の為だよ?」
「あ、ありがとう……」
「大地はいや?」

 あざとい! とスガなら一喝するだろう。でも相手は大地だ。こういう押しに弱いことくらい、熟知している。

「う、れしい……けど、やっぱ生足はだめだ」
「そ、そこまでっ?」

 誘惑を振り切るかのように頭を振った後、学ランを脱いで私に寄越してきた。そんなに生足がだめだったのだろうか。毎日生足だったのにどうして今更?

「あのなぁ。そりゃ嬉しい。嬉しいけども。こういう階段の時とか、俺がどんだけハラハラしてるかなまえは気付いてねぇべ」
「え、でも一応スカートは抑えてるし……」
「いーや。なまえは無防備すぎる。男は見てる」
「えっ」
「見れるモンは見ようとすんだ。だからもっと気を付けろ」
「大地も?」
「俺はっ……俺も、なまえのならって思う時ある」
「えーっまじか大地」
「だ、だから! 俺の為にもきちんとガードしてくれ!」
「……は、はい」

 必死な頼み事を受け取り、大人しく腰に巻き付ける。隣では我に返ったのか、「俺、ヤバイこと口走ったな」と大地が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。まぁ確かにビックリもしたけど。

「次からはもっと気を付けるね」
「お願いします」
「あでも。大地にならサービスするから。その時は言ってね」
「おま……っ」

 腰に巻いた学ランをチラリと覗かせおどける。そうすれば大地は真っ赤な顔してそれを制すから。いつもは堂々としてる大地がこんなにも慌てふためくなんて。それこそ、彼女である私にだけの特別大サービスなんだよね。

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