エース様のクリスマス

 12月24日。ちなみに曜日まで言うと木曜日。……まぁ俺にとっては何でも無い日なんだけど。
 それなのに、何であの堅物監督は今日に限って部活を休みにする訳!? 逆に空気読めって感じ。皆も皆だよ。休みって分かった瞬間はしゃいじゃってさ。子供じゃあるまいし。ちょっとは大人になれよ。俺みたいに! 寮に戻ってプラプラしてると皆から「あれ、成宮どこにも行かねぇの?」だの「お前の事だからそそくさと出かけるかと思ってた」だの、余計なお世話だと言いたくなる位に声を掛けられた。……うるせっての。そんな声から逃げる様に部室に向かうと何故かそこにみょうじが居て驚いた。

「あれ成宮。どうしたの?」
「べっつにぃ? みょうじこそ、こんなトコで何してんの?」
「ちょっと探し物をね」
「へぇ」

 自分にとって都合の良い方に捉える良く出来た俺の頭は“要するに暇”と解釈した。だからにんまりと上がる口角を隠すこともしないで

「俺も“偶然”“何故か”暇なんだよね。どっか連れて行ってやってもいいけど?」

 デートに誘ってやった。……のに。

「えっ、良いよ良いよ! せっかくのお休みなんだし、体休めてリフレッシュしな?」

 思ってたのとは違う返答で、思わず真顔に戻って「は?」なんて気の抜けた声で聞き返してしまった。

「明日から冬合宿だし、今日は寮で過ごさない?」

……こいつ、今日が何の日か分かってないのか? と本気で心配した程だ。

「あ、でもそっか。……クリスマスだもんね」

 あぁ、良かった。ちゃんと理解してたか。じゃないと女子高生じゃねぇよ。と頭の中で1人会話を繰り広げていると

「成宮の事だから、お誘いなんてすぐ来るよね?」

 なんて尋ねてくるみょうじ。そんなみょうじに「お、おう! まぁな! んじゃ、ちょっと外行ってくるわ」なんて咄嗟に答えてしまう。バカか、俺。



 そんなやり取りを数十分前にしてしまったせいで俺は外に出る破目になっていた。くそ、周りの奴は皆して着飾ってるし。俺なんてジャージにネックウォーマーだぞ。寒ぃよ。街も街でなんなんだよ。キラキラしやがって。聖夜だ何だと歌まで流して。浮かれてんじゃねえよ。
 荒くれた気持ちをぶつける様に目に映るもの全てに毒づきながら歩いていると、キッチンカーを見つけた。寒いし、コーヒーでも買うかな……。そう思って、この寒い中結構なお客が並んでいる列に1人で加わる。
 ふと前の客に目を向けると、トナカイの角を生やした彼女とサンタの帽子を被った彼氏が「寒いねぇ〜」「そうだな〜」なんて進展も無い会話を交わす幸せそうな顔に何故かイラっとする。
 良く出来るよな。家でしろ。羨ましくねぇよ。と心で毒づきながらそっと列を離れた。ったく、何で俺がこんな気持ちになんないといけないんだよ。



 結局コーヒーも買えなかったし、何て日だとうんざりしながらまた街を歩き出す。しばらく歩くと一軒の雑貨屋さんに目が留まる。

「……これ、アイツが好きなヤツ」
 
 “ノラネコギャングよりこっちのが断然可愛い”前にポロっと言っていた言葉を思い出す。アイツがそう言って嬉しそうに持っていたキーホルダーはあの猫よりもっとヘンテコなデザインの犬。そういえば「え、そんなのが良いの?」ってバカにしたら「何かこの子ツボなんだよねぇ。でも皆に言っても分かって貰えないし、恥ずかしいから内緒ね?」とも言ってたっけ。

「本当に売ってんだ」

 取扱店がある事に感動しつつ、店内に入ってみると可愛い雑貨もちゃんと置いてあった。アイツ好きそうだな……今度教えてやろう。店内は結構な人が居たけど、あの犬のコーナーだけはやっぱり人気が無くて“だよなぁ”なんて思いつつ、苦笑してしまう。

「ありがとうございました〜!」

 店員さんの挨拶を聞きながら店を後にしながら……買ってしまった。と自分の行動に溜め息が出てくる。「可愛いデザインにして下さい!」そうお願いして包んで貰った袋の中にはあのヘンテコ犬のシャープ&ボールペンセット。これならシンプルなデザインだし、普段使ってもバレないだろ。アイツ喜ぶだろうなぁ。俺にしかあげらなれないプレゼントだし? やっぱ俺って出来る男だなぁ。天才だよ。アイツ開けた時どんな顔するかな。あー、早く渡してぇ。……あ! てか、探し物見つけれたかな。手伝ってやれば良かったな。そこまで考えてふと冷静になる。


 やでも待てよ? 今日クリスマスだぞ!? アイツこそ予定あるんじゃ……!

 途端に焦りが出てくる。まさか……野球部の誰かと!? そう思うと同時にアイツが隣の誰かに笑いかけている映像が浮かんで来てブンブンと頭を振って追い払う。でも野球部に俺以上のイケメン居ねぇし。それに俺が1番アイツの事見てる自信あるし。……それなのに、アイツは違う奴の隣で笑ってるなんて割に合わねぇ。俺の事だけ考えてろよ。俺の隣で笑ってろよ。そこまで考えてふはっと笑みが零れてくる。……俺、超好きじゃん。

 今まで何人にも告白された。それはまぁ、嬉しかった。樹に自慢もした。だけど結局俺の頭の中を占拠してるのはアイツで。はぁっ、と白い息を吐きながら星空を見上げる。アイツがまだ学校に居ますように! 星に願いを、何て柄じゃ無ぇけどそうお祈りして走り出す。



 猛ダッシュで学校に戻る。時間が時間だし帰ってるかも、と不安になったけどひたすら走った。携帯で連絡って方法も忘れて、そりゃあもうメロスかよってくらい。無我夢中。だけど包装して貰ったプレゼントは大事に抱えて。学校に着く頃には息が上がってた。この時間なら皆食堂に居るハズ!と思い食堂に飛び込む。

「アイツもう帰った!?」

 開口一番にそう叫ぶ。しかし次の瞬間目に映った光景に「は……?」と力の無い声が漏れる。

 いつも味気の無い食堂が今日は綺麗に飾り付けられていて美味しそうな食べ物も並んでいた。そこにはアイツも居て。

「やっと帰って来た! クリスマスに休み貰えたから、集まれる人でクリパしようってなったの。皆が成宮は予定無い筈って言うからライン送っても既読付かないし! もう、待ちくたびれた!」

 ぶつぶつと文句言ってた気がするけど余り耳に入って来なかった。

「これで集まれる人揃ったね!……てか全員じゃん!」

 みょうじが顔ぶれ見て突っ込むと「マジじゃん!」「寂し過ぎ!」騒ぎ出す部員。その様子を見てはは、と笑った後「行こっか」と振り返って俺に喋りかけるみょうじ。その言葉に反応せず、みょうじの手を掴んで食堂を出る。

 始まったパーティーに夢中で皆には抜けた事に気付かれずに済んだ。「どうしたの!?」なんて言葉をみょうじは状況が分からず、ひたすら口走っていた。
 その言葉全部を無視しながら歩く。今、みょうじのその言葉に答えてる余裕なんて無いんだ。溢れそうになる言葉を必死に抑えながら、俺はぐんぐんと先を見つめて歩き続けた。



 外灯の下でようやく手を離し、立ち止まりそこで改めてみょうじと向かい合う。

「なるみ、「好き」……は?」
「だから! 俺は! お前の事が! 好きだっつてんの!」

 俺にとってはようやく言えた言葉だったけど、みょうじからしてみればあまりにも唐突過ぎた様で、いつぞやの俺みたいな顔を浮かべている。まぁ、そんな顔も可愛いんだけどな。だって外気に当てられてみょうじの顔は赤くなってるし、もうなんていうか、うん。やっぱコイツ可愛いわ。

「何で……私なんかのこと……」
「理由は色々ある! けど長くなるし、好きなトコつらつら並べて告白なんて格好悪ぃだろ」
「や、けど、」
「だーかーらー! 好き!」
「なっ……」
「聞こえねぇの!? エース様が好きって言ってんの!」
「ほんと、ちょっ……」
「伝わるまで言うからな!」
「〜っ!」

 顔だけでなく、耳まで真っ赤にして座り込むみょうじ。やべ、可愛い。

「返事は? ま、イエス以外聞き入れねぇけどな!」
「嫌い」
「……え」

 思わず袋を落としそうになる。予想外だ。マジかよ。

「はは、顔ヤバ。嘘だよ」

 “私も好き”その言葉に今度は俺が顔を赤くする番。俺もずっと外に居たからだいぶ顔も赤らんでると思うけど、多分今の俺は顔から火が出せると思う。それ位、顔が熱い。

「子供っぽい所も、エースだから、で押し通す理不尽さもぜんぶ、すき」
「……もっと! 俺の好きな所言って!」
「嫌」
「何で!」
「とにかく好き! 大好き!」
「え? 聞こえない! もっかい!」

 ワザとそう言う。だってそうすれば聞こえるまで何度だって言ってくれるだろ? 俺と同じくらい火照ったその可愛い顔で好きって。



「好きなトコつらつら並べて告白なんて格好悪いし?」
「や、あれは……無し! 好きなトコ俺も言うから!」
「や! いい!」「なんで!」
「好きな人にそんなの言われたら恥ずかしいじゃん!」
「何それ! 超可愛いんですけど!」
「私たちバカップルか!」

 ひとしきり、なんの進展も無い会話して笑いあった後に「……ん」タイミングを逃してたプレゼントを渡す。

「これ! え! どこで見つけたの!? わー! 成宮覚えててくれたんだ! ありがとう! 大好き! わー! やっぱ可愛い!」

……なんかオマケの様に好きって言われたけど、想像以上に喜んでくれたから良しとしよう。

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