親愛なる信頼

「なーみょうじ。この間の休みさぁ、どっか行ってた?」

 お昼休み、大地が食堂に行って2人きりになったタイミングで隣の席に座るスガから唐突に聞かれる。

「どっか、って?」
「買い物とか」
「うん、行ったよ」
「1人で?」
「1人じゃないけど。……どうしたの? スガ」

 そんな事聞いてどうするんだろう。

「あ〜……、」と言い渋るから「何かあるから聞いたんでしょ?」と問い詰める。

「俺の口から言って良いか分かんねぇんだけど……。この前の休みにお前が男と歩いてるのを見たってクラスの女子が騒いでてさ……」

 それを聞いてスガの質問の真意が何となく分かった。

「あぁ、女子ってそういうの好きだもんね。大地にも言ってたんだ?」
「まぁ……。大地は“へぇ”って答えるだけだったけど」
「そっか……」
「お前の事を信じてるからこその態度だと思うけどな」

 スガはそう言ってくれたけど、大地が女子の言う事を真に受けたようにも取れてしまう。「多分、あの時だと思う……」とスガに事情を説明する。



「……そうだったんだ。大地からは何か聞かれた?」
「ううん」
「そっか。まぁ、信じてるから何も聞いて来ないんだと思うけど、1度話し合った方が良いと思う」

 余計なお世話だったらごめんな? 少し申し訳なさそうに笑いかけてくるスガに、教えてくれてありがとうとお礼を伝える。



「大地、今日一緒に帰れる?」
「部活終わるの待って貰う事になるけど、いいか?」
「平気。教室で待ってる」
「分かった。じゃあ終わったら迎えに行く」

 今もこうやって大地は普通に接してくれる。だけど、心の中ではずっと女子に言われた事が引っ掛かってるんじゃないか、って考えたら凄く申し訳なくなる。

「悪いなまえ。待たせた」

 教室に大地が迎えに来てくれて、歩いて帰る。

「珍しいな。こうやって部活ある日に一緒に帰るの」
「そうだね。……あのさ、大地」
「ん? どうした?」
「この間の休みの日の事なんだけど……聞いた?」
「あぁ、うん」

 早く本当の事を伝えたくてドキドキする。

「実は、お姉ちゃんとお姉ちゃんの旦那さんと買い物に行ったの。それでお姉ちゃんとはぐれちゃった時があって。お兄さんと探してた所を丁度クラスの子に見られたんだと思う」

 男の人とは出かけたけど、2人きりじゃ無いし、ましてや身内だ。大地に誤解されたくなくて、一生懸命説明する。

「へぇ、そっか」

 大地の返事はあっけらかんとしてて。

「信じてくれるの?」
「え、だって本当の事だろ?」
「そう、だけど」

「だったら信じる以外の選択肢無いだろ」至極当然の様に言うから、「でも普通、彼女が男の人と歩いてたって聞いたら気にならない?」とこちらが食い下がる。

「それはそうかもだけど……。なまえは、そういう事出来ないだろうし」

初めっから疑って無いよ、と優しい顔をして笑いかけてくるから、目に涙が浮かぶ。

「ごめん大地ぃ!」
「え、え、何!」
「私の方が大地を信じれてなかった」

 泣きながら大地の胸に飛び込むと、しっかりと受け止めてくれる大地。

「でも俺の事心配して言ってくれたんだろ? それだけで充分だよ」

 なんて優しい言葉を添えながら、背中をさすってくれる。あぁ、大地の手、暖かくて、安心する。……大地を好きになって良かった。心からそう思う。
 スガにも明日お礼言わなきゃ。「スガのお陰で大地ともっと仲良くなれたよ」って。スガからは呆れられちゃうかな。






「あ、でも“かなりイケメンだった!”て聞かされた時はちょっと焦った」
「義兄さん、アンパンマンに似てるって言われるけど……」
「……まじか」

BACK
- ナノ -