Happy Surprise Birthday!

 ついにこの日が来た。この日の為に野球部は行動を起こしていた。御幸と同じクラスでもある私と倉持が主動となって、この日の為に計画を立てた。倉持は初めこそ「何で俺が……」とか面倒臭がってたけど、こうやって振り返ってみると誰よりも一生懸命に行動してくれたと思う。

 まず、行動を起こす前に何をするかを決めないといけなかったけど、話し合おうにも私と倉持は御幸と同じクラスだし、部活後はみんな寮に帰っちゃうしで中々時間が作れない中での秘密会議だった。倉持とクラスで話してると御幸が「何話してんの〜?」とこっちに来たりしてヒヤヒヤさせられた。



 話し合いの結果、みんなでお金を出し合って、ネックウォーマーとアンダーシャツを買う事になった。でも私1人じゃサイズとか何が流行ってるのかとか分からないから、倉持にオフの日に付き合って貰った。倉持はまた「貴重な俺の休日を……」とかぼやいてたけど、結構真剣に選んでくれた。本当は友達思いだよなぁ、倉持って。

 プレゼントは無事に買えたけど、やることはまだまだ他にもあった。

 幸子ちゃんと唯ちゃんが今まで撮ってきた写真を手作りアルバムにしてくれる事になって、その間に私と倉持で色んな人の所に行ってムービを撮らせて貰った。この作業は結構大変だったなぁと思う。ムービーはビデオを渡しておいて、寮でみんなに撮って貰ったりもした。
 家に帰って貰ったビデオを再生すると、「御幸来るで! 早く!」とか「悪い! 噛んだ! もっかい!」とかそういう声まで入ってて、笑いながら編集した。

……ただ、ゾノが撮ったであろうムービーはブレブレで少し困った。

 コメントは卒業した先輩方、先生達、あと稲実の成宮君達にも協力して貰った(白河君は嫌々だったけど)。家に持ち帰って夜遅くまで編集してると時間なんてあっという間で。御幸に「みょうじ、スッゲー隈出来てんぞ。寝不足?」って言われた時はドキッとした。



 そして今日。誕生日だからといっても部活も学校もいつも通り。何も変わらない。……ふりをする。今日は、放課後練習を少しだけ早めに切り上げて貰って、食堂でお祝いをする予定になっている。それまでは気付かれない様にしないといけない。みんなにとって試練の1日。私達はクラスが一緒だし、どっちも巧く誤魔化す自信なんて無いから、もしも誕生日について触れられたら……とヒヤヒヤしていた。だけど、御幸から誕生日について触れられる事は無くて、倉持と「あいつ、自分が誕生日って事忘れてんじゃね?」と心配した程だった。



「今日は軽く走って終わりだ」

 お願いした通り、片岡監督は早めに練習を切り上げてくれた。御幸は少し驚いてたけど「会議に出ないといけない」と監督が誤魔化してくれたお陰で何とかなった。こっそりお礼を言うと、「これも思い出だからな」と柔らかい声色で返してくれる。

 ありがとう、監督。



 寮に戻ってから、倉持に御幸を自主練に連れて行って貰ってその間に食堂で幸子ちゃん、唯ちゃん、春乃ちゃんとケーキとご飯を作ったり、飾りつけを皆にして貰ったりと準備が整った所で御幸を連れて来て貰う。暫くすると「もう飯? 早くね?」と御幸の声が聞こえてきてドキリとする。沢山の人に協力して貰ったし、成功します様に。そう祈りながらドアが開くのを待った。



「ハッピーバースデー!」

 みんなで一斉にクラッカーを鳴らす。御幸は暫くポカンとしてたけど「ははは」と笑いだすから、「どうしたんスか? 眼鏡先輩」「驚き過ぎて壊れたんか……?」とこっちが驚く。

「いやー、バレバレだったから」

……え? バレてたの?

「コイツ等なんかあからさまに俺を避けるし、みんなもソワソワしだすし。そりゃ意識させられるっつーの。気が付いてないフリするの大変だったわ〜」
「私達そんなバレバレだったんだ……」
「でも、ここまでしてくれるとは思わなかった。ありがとな」

 あ、御幸嬉しそうな顔してる。



 サプライズ成功! とはならなかったけど、皆からのプレゼントとアルバムを渡してご飯も食べた後、私が編集したムービーを見る事に。

「ムービーまであんの? すげぇな」

 ワクワクと再生されるのを待つ御幸の期待に応えれますように。そう思いを込めて再生ボタンを押す。ムービーは失敗テイクを入れたりもした。

「あ、これ噛んだヤツ! 撮り直ししたのに!」
「うぉ、麻生の顔、照明が当たって見えてねぇぞ!」
「おい、この映像ブレブレじゃね? 誰だよ撮った奴!」

 見ながら皆で笑った。でも、皆お祝いの言葉だけじゃなくて、労いの言葉や感謝の気持ちも言ってて、温かい言葉達に編集した私も涙ぐんだ。チラッと横目で御幸を見るとほんの少しだけ目が潤んでる様に見えた。



 ひとしきり騒いだ後、御幸の誕生日会はお開きとなった。

「俺スゲー大変だったんだからな!? 今日の事忘れんなよ! あと、俺の休日返せ!」
「はいはい、ありがとう。倉持クン」
「うわ、なんかすっげームカツク」

 楽しそうに雑談する御幸を見て良かったとほっとする。……でも私にとって誕生日はまだ終わってない。まだ後1つ。渡さないと。そう気合を入れて、ポケットの中に仕舞ってある小さな紙袋にそっと触れる。



「み、御幸!」
「ん?」
「あの、誕生日、おめでとう」
「おー、倉持と色々してくれたみたいで。ありがとな」
「……あの、ね」
「うん?」

 これ……と押し付けるように紙袋を渡す。

「え……お前から? 開けて良い?」
「……うん」

 やばい。ドキドキする。

「お、ミサンガ。手作り?」
「……そう」

 ムービーを編集する傍らで必死に本を読みながら、編んだミサンガ。不器用なりに一生懸命に作ったけど、やっぱり不格好な出来になってしまった。

「不格好だから……あの、捨てても、全然」
「捨てる訳無いじゃん。大事にする」

……う、わ。そんな顔しないでよ。なんか照れるじゃん。

「ぶっちゃけ、今が1番テンション上がってるわ」
「え」
「本当はさぁ、お前から素っ気ない態度取られたり、倉持と出かけたとか聞いたりすんの、キツかった。でも、目の下に隈作ってたのも俺の為なんだって思うと、すげぇ嬉しい」

 そんな事言われると思わなくて。恥ずかしくて顔を下にさげてしまう。

 中々顔があげられなくて、御幸に「そろそろ顔上げてくんね? 俺まで恥ずかしくなんだけど」なんて言われてしまう。でもさっき言われた言葉が胸の中でジンジン響いてくるし、言った張本人の顔なんて見れる訳が無い。

「とにかく、おめでと!」

 そそくさと逃げようと思った私の思惑は虚しくも、がっちりとした手に腕と共に阻まれてしまった。

「逃げんなって。俺にも礼を言わせろよ」
「ご、ごめん……?」
「はは、謝る所かよ」
「や、だって!」
「……今日の事は絶対忘れない。ミサンガも大事にする。本当にありがとうな」
「……うん!」

 御幸のこんなに嬉しそうな顔が見れるなら、毎日御幸の誕生日でも良いかもな。あ、でもそうなるとネタを考えるのが大変か。とか、色々と考えるけど、やっぱり第一に思う事は――

 誕生日、おめでとう。御幸。

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