祈ることはいつも、

 大地とは所謂幼馴染みというモノだ。昔からずっと大地の誕生日でもある大晦日は二人で近くのお寺にお参りに行くのが自然と出来た決まり事。今日も家のチャイムが鳴らされ、大地が我が家に顔を出す。「今年もお世話になりました」なんて挨拶もそこそこに二人で家を出る。



「おい、なまえ。もっと暖かい格好しろよ」
「中に着込んでるから大丈夫……っくしゅ!」

 言ったそばから出るくしゃみ。それを見て溜息を吐いて自分のマフラーを巻いてくれる大地。

「わ、ごめん。大地」
「いーよ、俺は。中に着込んでるし?」

……やけにどや顔だから肩を叩いておいた。



 お寺は地元の人しか来ないから、そこまで混むような場所じゃない。だけど大地はいつも少し前を歩いて、私が人とぶつからないようにしてくれる。
 私は昔からその背中を後ろから見るのが好きだったりする。……今みたいに時々然り気なくチラッと後ろを振り向いてくれる所だって好き。除夜の鐘が鳴るのを待ちながら少し話をする。

「そういえば、大地。誕生日おめでとう。プレゼントはまた今度で良い?」
「おぉ、ありがとな。プレゼントはラーメンで良いぞ」
「はは、なにソレ。安上がり過ぎ」
「あ、ラーメンを馬鹿にしたな?」
「してないよ!」

 他愛もない話をするうちに除夜の鐘と共に「明けましておめでとう」の声が聞こえてくる。

「明けましておめでとう」
「今年もよろしく」

 挨拶を交わし、お詣りをする。多分大地はバレーの事を願ってるんだろうなぁ……。大地をチラッと見て、私もお詣りをする。私の願い事は毎年同じ。

“大地がバレーで活躍出来ますように。ケガしませんように。来年の今日も大地とここに来れますように。誕生日の最後の瞬間を一緒に過ごせますように。そして新年を一緒に迎えれますように。大地と沢山の思い出が作れますように”

 こうやって、毎年大地のことばかりを願う。――閉じていた目を開ける。ふと視線を感じ、横を見るとうっすらと笑ってる大地が。

「熱心に願ってたなぁ。どうせ太りません様にとかだろ?」そうからかってくるから、「大地と来年も一緒にここに来たいってお願いしたんだよ」って素直に告げてみる。……あ、固まってる。

「そっか……」と白い息を吐きながら、前を向いて「……俺も、」なんて言うから今度は私が固まる。

「俺も、この先ずっと一緒にここに来れますようにって願ったんだよ」
「え、」

 それどういう意味って尋ねようとしたけど「さ、帰るべ!」と心なしか顔が赤い大地に遮られてしまった。



 さっきの言葉、良いように解釈すると大地も私と同じ気持ちって事? 言われた言葉を思い出し、悶々と考える。

「おーい?……なまえ?」

 大地の声が脳内に響いて呼ばれていたことにハッとする。

「あー……さっきの事、やっぱ気にするよな?」

 頭をがしがしと掻きながら聞いてくるからドキッとする。

「う、ん」
「悪い、さっきも逃げちまった。毎年言おうと思ってるのに中々言えなくてさ……。でも来年からお互い別々の道歩くかもって思ったら今年しかねぇだろと思って」

 そこまで言うと大きく深呼吸を一つ。

「ずっとなまえの事好きだった。これからも年を越す瞬間を一緒に過ごしたい。……俺の彼女になってくれませんか」
「……嬉しい」

 ポロっと溢れる言葉。

「え?」

 聞き返してくる大地に抱き着く。

「私も大地の彼女になりたい」腕の中でそう呟くと「良かったぁ〜……」と頭の上から聞こえる声。

「幼馴染みだからこそ、一歩踏み出すの怖かった」
「あはは、全く同じこと考えてたんだね、私たち」

 新しい年を迎えた帰り道。私たちは幼馴染みから恋人に関係を変えて2人で歩く。去年までは繋がれることのなかった左手も、今は大好きな人の右ポケットの中。頬に冷気を感じるけど、繋がれた左手と大地が巻いてくれたマフラーのおかげで寒くなんて無い。

――あぁ、なんてしあわせ。







「わ! ちょ、バレー部のライン凄いことになってる!」
「ほんとだ。あけおめの嵐」
「てか、みんな“ついでに旭さん誕生日おめでとう”だって」
「それが旭だからな」
「でも旭も律儀に“ついででもありがとう”って返してる。旭らしい」
「ふはっ! だな」

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