双璧の手綱引き

「おい、宮兄弟がまた喧嘩始めたで!」

 その言葉を聞いて分かるように、この高校ではそんなに珍しい事ではないのだ。その誰かの叫びを聞いて、バレー部のマネージャーであるみょうじなまえはまたか、と溜め息を1つ吐き出す。

「角名! スマホ準備! 録画しとってや! んで、アラン! 北か先生呼んできたって!」

 そしてすぐさま気持ちを切り替え、周りにテキパキと指示を出し、嵐に向かって歩いて行く。

「は? やからサムが悪いに決まっとるやんけ!」
「アホ言うなや、ツムのが100%悪いに決まっとる」

 ボルテージが増していく兄弟喧嘩。よくまぁそんなに喧嘩する話題があるもんやなぁと関心する気持ちすら湧いてくる。

「あんたら、いい加減にしときぃ! んなアホみたいな事でいちいち突っかからんでええねん!」
「だって、サムが!」「いやツムやろがい」
「うっさい! 外野から見たらどっちも一緒に見えんねん! あんたらが掴みおうとったらどっちがどっちか分からんでこっちが疲れるんや!」
「いやそれはなまえさん、マネージャーとしてアカンやろ。サムと間違われるのは心外やわ」
「こっちのセリフやわ」
「なんやと!」

 前言撤回。やっぱめんどいわ、この双子。

「あー! うっさっいねん! あんたら今日帰れ!んで家でやってせいぜい母ちゃんにでも怒られろ!」
「えー、バレーやれんのはいやや。なぁ、サム」
「オカンに怒られんの長いし、嫌いやねんなぁ」

 うんうん、と意気投合する2人にやっぱり顔も似ていれば、思考回路も似るものなのかと少し興味も湧いてくるが、今はそれ所では無い。

「やったらさっさと練習始めんかい!」

 そう言って尻を叩くと「う〜い、」と気の抜けた返事をし、ようやく練習に戻っていった双子に安堵の息を漏らしていると北がゆっくりと歩いて体育館へと入ってくる。

「なんや、また兄弟喧嘩やっとるらしいな」
「あ、北。ごめんな、バタバタ来てもろうたんやけど、今終わったとこやねん」
「いや、どうせみょうじが間入っとるやろ思うて、急ぎはしてへんよ。それよりまた動画取ってくれとるんか?」
「おん。角名に頼んでバッチリやで。角名、後で見せてな」
「みょうじ先輩が怒鳴っとる所もバッチリ撮ってますんで」
「はぁ? そこまで撮らんでええっちゅうねん。消してぇや」
「いや、兄弟喧嘩はいっつもみょうじが間入っていくとこまで納めるのが常識やな」
「アランまで変な事言うなや」

 端の方で皆と雑談しているのを目敏くツムから見つけられ、批判を浴びる。

「なまえさーん、俺らに怒ったクセに他の人には注意しぃひんの何でなんですかー。さっさと練習やろーや」
「どの口が言うてんねん。このアホツムが!」
「おー、怖っ」
「ツムもアホやなー。オカンの説教とおんなじ位なまえさんの説教も長いのんいつまで経っても学ばんのやな」
「はぁ? サム。なんやて? 私の注意が長くてつまらんやって?」
「いやそこまでは言うてへん」
「わー、サムもアホやなー」
「分かった、あんたらちょっとこっち来ぃ」

 もう、許さへん。コイツらいっぺんしばいたる。

「すみませんでした。真面目にやるんで勘弁して下さい」
「ツムと仲良く練習します。許して下さい」
「おい、サム。もっと謝れや」
「いやいや、ツムなんか1回も謝っとらんやんけ」

 コイツらまた喧嘩しよる……。アホやな。ほんまもんのアホや。

「もう今頃何言うても遅いわ! 初めっから態度で示さんかい!」

 体育館の片隅で鬼のような剣幕のマネージャーに怒られている正座した双子を角名が写真に収め、グループラインを賑わすのはまた別のお話。

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