偶然が結ぶ必然

 必然の偶然とはこういうことを言うのだろう。偶然東峰の帰省が重なり、偶然潔子と連絡を取り合うことがあり、偶然田中とスガも連絡を取り合っていた。そして、そこに大地の休みが重なった。烏野高校排球部地元組(東峰は特例)。久々に集まって飲み会をしようという話になるのは必然だった。

「潔子たち、相変わらず元気そうでホッとした」
「だな。旭もまぁまぁ元気そうなのが知れて良かった」
「今や1番連絡取りにくい相手だもんね。売れっ子デザイナーめ」

 「その割には貫禄みたいなものがなかったよな」という大地のセリフに思わず吹き出す。確かに東峰は自分のデザインにはあれだけの自信を見せるのに、自分自身に対しては未だ過小評価気味に思える。まぁ昔のような行き過ぎたネガティブというよりかは“謙虚”という表現が似合う程度にはなったけれども。……色々頑張ったんだろう。ヒゲちょこなりに。

「てかスガのこと田中家に置いてきて大丈夫だったかな? 今日年末なんだけど」
「年越し前には起きるだろ。さすがに」
「まぁそうだろうけど。スガのことだからたとえ起きてもそのまま田中家に居座りそうなんだよね。“このままここで年越す!”とか言いそうで」
「その時は俺が連行するよ。旭のとこまで」
「まさかの東峰家」

 東峰は良いとして、東峰のご両親が迷惑だろう。……いやあの息子が居るご家庭だ。暖かく受け入れてくれるかもしれない。なんなら年越しそばまで用意してくれそうな気配すらある。

「はー。にしても。楽しかったね。今日」
「ああ。久々にアイツらと集まれて良かったよ」
「ね。またいつか集まりたいな」
「だな。まぁ俺たちは地元組だし、またいつでも集まれるさ」
「東峰は?」
「アイツは4年に1回くらいで良い」
「オリンピックレベル」

 けらけらと笑うと、隣を歩く大地もおかしそうに白い息を吐く。大地の笑った顔がいつもより緩やかなの見て、今日の集まりが大地にとってどういうものだったのかを知る。どうやら大地も存分に楽しんだようだ。かくいう私も、年の瀬に大地と過ごせるのは何年振りかのことなので実は結構はしゃいでいる。

 潔子の家で飲んだビール。あれはいつもよりも美味しかった。その味が体の中に余韻として残っているのがふわふわとした浮遊感から伝わってくる。
 時刻は19時半。年末のこの時間帯は街灯がないと何も見えないほどに暗い。それにこの道は人通りもなく、住宅街からも離れた場所にある。そういう偶然を重ねた結果、私の体は数歩前を歩く恋人の背中に吸い寄せられた。

「19時28分。澤村大地確保!」
「おわっ!? ちょ、なまえっ」
「へへっ。大地が浮かれてたから。このままだと雪に足取られそうだな〜と思いまして。現行犯逮捕します」
「どんな罪だよそれ。それに危ないのはなまえの方だぞ」

 夜の雪道で後ろから抱きつくんじゃないと至極真っ当なお叱りを受け「ごめんなさい」と謝りながら背中から離れようとすると、その腕を大地によって掴まれた。そのまま手を繋がれ、大地の隣に立つよう誘導される。

「転けないように確保しとかないとな」
「ふふっ。私が逮捕されちゃった」
「19時30分。みょうじなまえ、確保」
「うわ〜これは逃げられない」
「当たり前だろ。俺は現役の警察官だぞ」

 胸を張って得意げに言う大地を笑いながらぎゅっと握りしめた手をブラブラと揺らしてみせても、大地の大きな掌が離れることはない。そのことに嬉しさを感じ笑い声として溢してみせると、それは大地の口からも零れ落ちていた。

 色んな偶然が重なって私たちは出会い、その偶然が生み出した必然が私たちの関係性を“恋人”にした。
 そしてここからそう遠くない未来。私には「みょうじなまえ、確保」と言いながら左薬指に小さな錠をかけられる未来が訪れることになっている。

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