困らせ属性のきみ

 鋼の遠征選抜試験のアンケートを見せてもらった。行きたい人に挙げていた人物たちを見て「納得だわ」と笑い、その下にあった行きたくない人欄を見て目を見開いた。鋼に行きたくない人なんて居るんだ――という驚きは、理由を見て“あぁ、なるほど”と思わされた。と、同時に胸がぎゅっと締め付けられるのが分かった。



「なまえ、送って帰ろう」
「ううん、平気。まだ明るいし」
「いや、送って帰るよ」
「……ありがとう」

 鋼は必ず私を家まで送り届けてくれる。それは私と鋼が付き合っているからってことが大きい。今までは彼女の特権に甘えて嬉しくなっていたけど、今日はちょっぴり複雑だ。鋼がこうして一緒に帰るのは、“もっと一緒に居たい”って気持ちもあると思う。それは私も一緒だし、こうして隣を歩く鋼からも楽しいって気持ちが感じられるので、この時間が嫌いなわけじゃない。

「なまえ、どうした?」
「……鋼が私のこと送ってくれるのって、心配だから?」
「まぁ。それもあるな」

 引っかかっていたことを問えば、鋼はあっさりと肯定してみせた。……心配、されてるよね。だって彼女だし。でもその心配が、今はちょっと苦しい。

「鋼は、心配するの疲れない?」
「どうして?」
「だって双葉ちゃんとか虎太郎くんのこと、“心配になるから”って理由で遠征一緒に行きたくないって書いてた」

 それってきっと、心配し続けて疲れるからってことだ。ということは、彼女である私は鋼のこといつも気疲れさせていたってこと。そのことが、私の心にずっしりとした重みをもたらす。その重みが顔を俯かせれば、「なまえ」という鋼の声がその重みを取り除いてみせる。

「オレは、なまえのこと心配している。いつでも、どこでも。ずっと心配」
「……ごめん、」
「謝らないでくれ。なまえのことは“心配になる”わけじゃないから」

 鋼の言葉にハテナを浮かべれば、鋼の口角が僅かに上がってそこに愛おしさが滲み出る。……あ、この顔。鋼よくしてるやつ。決して嫌だとは思っていない時の、どっちかっていうと、嬉しい時に見せる表情。

「なまえのことは“心配したい”んだ。オレが、したくてしてる心配」
「したくて、してる……」
「そう。だから、そこに負担なんてない。むしろその心配を表立って出来ることが嬉しい」
「鋼……」

 触れる距離だけど、握られていなかった手。その手を鋼の大きな手が握り、指と指を絡め合う。そうして視線を合わせれば、鋼の瞳がゆるりと細められた。……あぁ、この顔。私が大好きな顔。そうか、私たちはお互いが求めるものが一緒なのか。それなら、何も問題はないんじゃないか。

「これからもたくさん心配させて良い?」
「わざとに心配させるのはやめてくれ」
「ふふっ、どうだろ? 鋼に心配して欲しくてしちゃうかも?」
「……それは悲しい」

 うるっとした表情を見せる鋼が可愛くて、つい吹きだしてしまう。いつもは凛々しい武士のような人なのに、私の言葉1つで小動物のようになる鋼が堪らない。その気持ちを伝えるように握りしめた手に力をこめれば、鋼からも同じくらいの力を返された。

「じゃあ、負担をかけないように気をつけるから。これからも私のこと心配してくれる?」
「あぁ。嫌だって言われてもするよ」
「あははっ、嫌って言ってもされるのか。……じゃあ私は、そのことにおいてしばらくは心配しなくて良さそうだね?」

 そう言って笑いかければ、鋼は「心配ご無用だ」と笑い返してくれた。

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