おはようからおやすみまで

「鋼、隊長に選ばれてたね」
「あぁ、選ばれたからには隊長として頑張るよ」

 ロビーで話す話題はつい先ほど行われた選抜試験の全体説明会について。残念ながら私は鋼と同じ隊にはなれなかったけど、鋼が隊長として奮起する姿は今からとても楽しみだ。

「そういえば、アンケートって行きたい人と行きたくない人どっちも埋めた?」
「あぁ」
「……私の名前、書いてくれた?」

 ちなみに私は書いた。もちろん“行きたい人”の欄に。理由はそれっぽいこと書いたけど、きっと“格好良いから、好きだから”っていう本当の理由は見抜かれただろう。別に構わない。だって鋼と同じチームにはなれなかったし。でも、鋼も私の名前書いてくれていたらちょっとは気が済むかなぁと思って訊いてみた。その答えは「……ごめん、書いてない」だ。うっそでしょ鋼。私たち付き合ってるのに。

「あぁ〜でも私情挟まない鋼。そこが好き……」
「ありがとう。本当はなまえとも組みたいけど、」
「うん、分かってる。拗ねないから大丈夫。だけど試験始まったら中々時間取れなくなるだろうから、それまではたくさん私に時間割いてよね」
「あぁ。約束する」
「……てか、行きたくない人も埋めたんだ? ちょっと意外」

 鋼はあまり“この人が嫌い”っていうのない人だから。そんな鋼が行きたくないって人は一体誰なんだと不思議に思っていれば巴くんと双葉ちゃんの名前が挙げられた。それに目を見開き、次いで「心配になりそうで」という言葉に目を細めた。……確かに、この理由なら行きたくない人が埋まるな。そう言って笑えば、「今思えばこの理由でなまえのことも書けば良かった」と少し困ったように笑いながら告げる鋼。

「えっ、私と一緒に行きたくないってこと……?」
「違うよ。一緒に行きたい方」
「えっ?」

 鋼の目をじっと見つめれば、鋼も同じように見つめてくる。そうしてその目を少し緩ませ「一緒に居れない間、なまえのこと心配だから。一緒に行きたい」と告げるその声はとても甘い。……うっわ、ずるい鋼。そんな顔してこんなこと言うなんて。そんな風に私情を挟もうとする鋼がちょっぴり可愛くて、最高に愛おしくて。

「私、一緒に行きたくない人の欄に鋼のこと書けば良かった」
「えっ……」
「格好良過ぎて困るから――って」
「なまえ……」

 私たち、バカップルだ。そんな風に笑い合って、幸せを感じる日々。鋼はこういうちょっとした幸せもそのサイドエフェクトで忘れることはないんだって思うと、少し羨ましい。

「ねぇ鋼。これからたくさん“好き”って言ってね」
「どうして?」
「私は覚えていたくても忘れちゃう記憶もあるだろうから」
「……ん?」
「だからその分、たくさんの記憶で埋め尽くしたい」
「……なるほど。じゃあ俺はなまえの記憶に嫌っていうくらい残せるよう、頑張らないとだな」
「そうだよ鋼。じゃないと私、忘れちゃうからね」
「それは困るな」

 このやり取りも全て。私の中に刻み込まれますように。

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