super (  ) darling

―奥様にとって、木兎選手はどんな存在ですか?

 手元にある書類の途中でふと筆を止める。“どんな存在”か。……なんと書けばいいか、非常に悩ましい。
 4年に1度、光太郎が世界から注目を浴びる時期を数回味わい、光太郎は名実共に輝かしいバレー選手となった。光太郎たちの世代――いわばモンジェネの台頭もあり、バレー界はいまやどの層の人からも注目を浴びる大人気のスポーツとなっている。

 その第一人者でもある光太郎は雑誌やテレビの取材に大忙しだ。本人が楽しそうにしているので、妻である私はその姿を眺め楽しませてもらっている。とはいえ、今回のようにこうして妻の力も貸して欲しいと頼まれることもあるので、その時は全力で協力させてもらっているわけだけれども。

「どんな存在ねぇ……」

 光太郎を頭に思い浮かべれば、数日前に交わしたやりとりが掘り出される。






「ねぇねぇ、“スパダリ”ってなに?」
「え、なに急に」

 洗い物をしている時、光太郎がキッチンまでやって来て疑問を口にした。光太郎の口からは聞き慣れないワードにぎょっとして光太郎を見つめ返せば、「こないだ街中ですれ違った女の子たちが言ってた! “スパダリ最高”って。俺もそれになりたい! なれる??」とこれまた純粋無垢な瞳で返された。

「スパダリは“スーパーダーリン”の略ね。なんかもう色々高スペックな人のことを言うんだよ」
「へぇ! そっか! 俺もなりたい!」
「私にとって光太郎は既にそうだよ」

 頬をポっと染めながら言ってみれば「でもスーパーじゃやだ」と何ともノリの悪い反応。思わずシンクに洗い物を落としてしまった。光太郎さんよ、今あなたの奥様がスーパー可愛いこと言ったんですけど?

「俺は普通がいい! 超普通がいい!」
「超普通、とは」






 それは普通とは言わなくないか? というツッコミは光太郎に対して意味を成さない。なんせ、あの男はぶっ飛んでいるのだから。そういう部分が面白くて、好きな所なんだと、笑い合ったあのやり取り。

 ここまで考えてもう1度真剣に質問と向き合ってみる。

 私にとって光太郎は、ドアをきちんと閉めてくれない、洋服だって裏返しのまま、寝ぼけて脱衣所で寝ちゃう、寒い日は布団から出たがらない、起こしに来た私を引きずり込んで私で暖を取ろうとする、嘘を吐く時めちゃくちゃ分かり易い反応をする……なんかもう……とにかく“手のかかる旦那さん”だ。
 だけど、大好きなことやものには全力で、その全てが詰まったバレーコートの中の姿はそういうのも全部“ま、いっか”って帳消しに出来ちゃうくらい格好良い。……うん、やっぱり普通ではないな。世界で1番格好良い、“スーパーダーリン”だ。

 だけど、光太郎はそれを嫌がる。普通じゃないくらい、普通を願う。

 ペンを少しだけ宙で走らせた後、ガリガリとペンを走らせ筆を置いた。……これならきっと光太郎も喜んでくれるだろう。

―スーパーノーマルダーリンです!!

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