綺麗な神様じゃなかった

 火影の補佐。それが私に与えられた役職――とはいっても、ほぼないものに等しい。初代様に就いていた頃は扉間様が相談役としてその手腕を振っていたし、その扉間様が2代目になった所でそれは変わらぬこと。とはいえ、何もしないという訳にもいかないので資料整理を行ったり、執務室の掃除をしたりと雑務をこなす日々。

「失礼します。言われていた資料を――お?」

 ノックもそこそこに執務室に足を踏み入れれば、母音だけが取り残され短い声となって零れていった。“時間が惜しいので手早く話せ”という2代目様の要求に応じているうちに身に付いた早口。それを途中で止めたのは、テキパキと書類の山を捌くお姿がなかったから。正確にいえば姿はあるが、手と目が止まっている。

「珍しい……」

 初代様の頃はよく目にしていた居眠り。2代目様になってからはぱたりとなくなっていた出来事を懐かしく思うと同時に“仕方無いことだ”と腑に落ちる。
 2代目様になってから、私の仕事量がぐんと減った。それはつまり、2代目様がその分を担っているということ。それだけの量をこなしていれば疲労もその分多いに決まっている。

「お疲れ様です」

 聞こえないくらいの声量で囁きながら頼まれていた資料をそうっと置けば「……ん」と意識を取り戻す2代目様。さすがは2代目様。初代様は扉間様に見つかるまで眠りこけることもあったというのに。あの音だけで覚醒してみせるとは。……本来ならば部屋の外から響く足音だけで覚醒してみせたのだろうけれど。

「すみません」
「いや……ワシこそ、すまん」
「いえ、初代様の頃に比べれば少ない方です」
「兄者め……」
「昨夜も遅くまで術の開発を?」
「あぁ、まぁな」

 脳の覚醒を手伝う為に雑談を交わしていると「なまえは死者を甦らせることが出来るとしたらどうする?」と2代目様側から新たな話題を出された。

「転生……でございますか?」
「あぁ。やはり、親を甦らせたいか?」

 2代目様が行う忍術の開発には、様々な声があがっているのは知っている。中でも“穢土転生”なるものは初代様も苦言を呈していた。2代目様はきっと、今も穢土転生の術の研究を進めているのだろう。

「……私は、誰も甦らせません」
「何?」
「正直申せば、2代目様が開発されようとしてる“穢土転生”は手放しには賛成出来ません。しかし、この世は今も戦いで溢れています」
「……嘆かわしいがな」
「その世で私達は忍として生まれた。ならば、時には非情になるべきだとも思います」

 2代目様の瞳がじっと私を見据え、言葉の続きを待っている。2代目様が噂通りの“卑劣”なお方であれば、生意気な口を利く私などとうに切り捨てられているのだろう。

「私は2代目様のことを尊敬しております。しかし、それでも私は穢土転生を使って自分の親しい者を甦らせることはいたしません」
「何故だ」
「私情で使うべき術ではないからです。それに、甦らせずとも思いは私の中に残っております」

 自分の考えをしっかりと伝えれば、2代目様は短い息と共に軽く伸びをしてみせる。雑談の終わりを悟り頭を下げ踵を返せば「なまえ」と呼び止められた。

「お前になら穢土転生の術を教えても良い」
「……私には忍としての才がございませんので」
「ふっ、そうであったな。なまえよ、茶を持って来てはくれぬか」
「承知いたしました」

 互いに笑い合い、今度こそ執務室から退室する。忍の才がなく、この先の人生を嘆いた私を拾ってくださったのは他でもない扉間様。その扉間様がこうして傍に置いて下さり、私を認めてくださっている。
 扉間様は私に生きる意味を与えてくださるお方に等しい。他人からしてみれば“卑劣”なるお方であっても、私にとっては何にも代えがたいお方なのだ。

 誰がなんと言おうと、私にとって扉間様は崇めるべきお方。この思いは例え私が死んだとしても消えぬもの。

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