save from panchira!!
「大地ぃ、」
か細い声に呼ばれ声の出所を探ると、そこには澤村の彼女なまえが居た。普段からそそっかしいなまえは澤村からしてみれば目の離せない存在である。そのなまえが今にも泣きそうな表情で自分の名前を呼んでいる。今日も何か困った事態に陥り、助けを必要としているのだと察した澤村はなまえの近くに歩み寄り「どうした?」と声をかけた。
「あのね……、今日ね、ちょっと寝坊しちゃって」
「うん」
教室のドアにへばりついていたなまえを窓辺へと連れて行くと、澤村の制服の裾をキュッと握りしめた。あまりの慌てぶりに一体何事かとなまえの顔を見つめると、「あのね、下着のヤツ忘れちゃって……」ととんでもない言葉を言い放った。
「えっ!? ど、どっち?」
咄嗟に出た言葉は上か下か? という疑問。すぐに自分の質問のとんでもなさにハッとした澤村はんんっ、と咳き込み、意味のない誤魔化しを施す。とにかく、今目の前に居る彼女はどちらか片方を身につけ忘れたらしい。どうか下ではないことを祈る。と懇願にも近い願いを抱いていると、「した、」と呟かれ、澤村は思わず額に手をやった。
「今日は温かかったから、タイツじゃなくて靴下にしたの」
「頼む待ってくれ。確認するけどなまえ、今……ノーパン?」
いくら恋人とはいえ、女性に“ノーパン?”などと尋ねる日が来るとは。自分が口にしている言葉の変態加減に嘆きたくなった。なまえを窓辺に連れてきて良かったと、己の判断に賛辞を送りつつ深呼吸をして対応策を練り始める。
保健室に行けば借りられるはずだし、それまでは俺がピッタリくっ付いていれば最悪の事態は防げるはずだ。……大丈夫。なまえのパンチラは俺が守る。――そう固く決心をし、気持ちを切り替えた澤村になまえは「えっ違うよっ!」と否定を返して来た。
「え?」
「パンツ履き忘れるとかさすがにしないよぉ」
「それもそうか……すまん」
ではなまえは一体何を忘れたのだ? と素朴な疑問に変わる。下着とはブラジャーとパンツ以外何を指す? キャミソール、は上だしな……。と普段滅多に考えることのない下着について頭を悩ませる澤村に「ペチパンツ」となまえが答えを示した。
「ぺちぱんつ?」
「えっと、パンツの上に履くインナーのこと」
「へぇ、そんなのがあるんだな」
なまえの悩みの前に、女性下着にはそういう機能的なものもあるのかという感心に走ってしまった。とにかく、下着を身に付けていないという最悪の事態を免れたことに澤村はホッと胸を撫でおろした。では、なまえは一体に何に困っているのだろうか?
「下着が透けるのを防止してくれるヤツなんだけど……それを忘れちゃって」
「なるほど?」
「それがないとスカートの下スースーするし、風が吹いたら……パンツ、見えちゃう」
「……それはマズイな」
続くなまえの話で事の次第を理解する。確かに、パンツを履いていたとして、それを見られるのは澤村としても面白い話ではない。やはりなまえのパンチラは守らねばならないのだ。今日1日俺がなまえのそばに居なくては――と澤村は改めて意気込んだ。
「だから、大地の部活のジャージ貸してくれないかな」
「ジャージ?」
「うん。半ズボンのやつ、部室に予備ないかなって思って」
「……ある」
「ほんと? 良かった!」
「あぁ。ほんと……良かった」
後で一緒に行って良い? と尋ねるなまえに了承を返し、自分の教室に戻って行くなまえを見送った後、澤村の口からは深い溜息が漏れ出た。なまえのパンチラを俺が守らねば――という意味不明な意気込みをした自分が少しだけ情けなくて、恥ずかしい気分だった。