きみだけに見せてあげる

 私は怒ってる。大地に怒ってる。だって、あまりにも鈍感過ぎる。

 思い返せば、潔子をマネージャーに誘ったのも。あれも大地が鈍感だから成せた偉業だ。普通なら委縮してしまう程の相手にも、大地は臆せず話しかけてしまえる。……そういう誰にでも平等な態度が、大地の良い所で、みんなから好かれる所で、私の好きな所。でも、ちょっとくらい区別はして欲しい。

「澤村くん、昨日はありがとね。傘立てに返してる」
「おう、さんきゅ。俺も方向一緒だったし、ちょうど良かった」
「あんな急に降りだすとは思わなくて」
「な。俺もなまえに傘持って行った方が良いって言われなかったら危なかった」

 お昼を一緒に過ごそうと大地と2人で中庭に移動している時だった。潔子と1、2を争うくらいに美女と名高い女子生徒が大地に声をかけてきた。
 昨日はありがとう? 俺も方向一緒だったし? 急に降りだす? 2人の会話を必死に拾い集め、推測で筋書きを立てた結果、導き出されたのは“相合傘”だ。確かに一昨日の夜、“傘持って行った方が良い”って伝えはした。それをちゃんと守ってくれた大地は偉い。好き。でも、それは別に相合傘をして欲しいからじゃない。大地の健康を守る為だ。

 美女と1つ傘の下? なにそれ。嫌だ。私だってあんな美女と2人だったらドキドキしちゃう。コレが恋……? とかわけ分かんない勘違いしちゃうと思う。大体、傘は美女にやっちゃえばいいんだよ。それで、私に連絡くれたら私が大地のもとに行ったのに。そしたら大地と私が相合傘出来たのに。コレが恋! って自信満々に言えたのに。

「なぁなまえー?」
「なに」
「なんで怒ってるんだ?」
「大地が平等だから」
「え?」

 ポカンと口を開けている大地。はぁ? なにその顔。全く心当たりないってか。てか可愛いからその顔やめて。写真撮りたくなる。

「相合傘。なんで言ってくれないの」
「相合傘って? え、誰と誰が?」
「そんなの大地と美女に決まってるじゃん」
「あぁ。昨日の」

 あぁ、昨日の――って。もっと慌ててよ。やっべ! バレた! みたいな感じで慌ててくれたらこっちだって責めやすいのに。なにその“あぁそれね”みたいな態度。

「相合傘はしてねぇよ」
「……えっ。そうなの?」
「あぁ。俺の家近い所だったし、傘貸してやったんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「相合傘はしてねぇ」
「そ、だったんだ……えってか風邪引いてない? 大丈夫?」

 雨の中走って帰ったという大地を今更ながら心配すると、柔らかく笑って「平気」と告げる大地。うわぁ、どうしよう。やらかした。勝手に勘違いしちゃった。ごめん大地。

「にしてもなまえが嫉妬してくれるとはなぁ」
「っ、だ、だって……! 大地ってばみんなに平等に接するから!」
「誰にでもってわけじゃねぇぞ」
「嘘。みんなに優しい」
「なまえだけは特別扱いしてるつもりだぞ」
「……うっ」

 髪の毛を耳にかけ、真っ赤になった私の耳を見ては悪戯に笑う大地。……確かに。こんな意地悪な大地、私しか知らないのかも。

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