キングサリ

 真っ直ぐな人だなと思った。ナックルジムに来た初めての日からずっと。負けても負けてもオレさまに勝負を挑んでくるなまえはひたすらで、懸命で。

 いつしか、“なまえ”“キバナくん”と呼び合う仲になって。バトル終わりにカフェで一息ついて、バトル理論を交わすこともあれば、それ以外の雑談を交わすことも多くなっていった。
 それ程の時間を過ごすうちに、なまえがダンデと同じハロンタウン出身で、ダンデの幼馴染であることが分かった。

「キバナくんはダンデの公認ライバルだもんね」

 ダンデのライバル。自他ともに認める関係性は、悔しくもあるがそれ以上に誇らしいものだった。普通だったら、なまえの言葉も羨望のまなざしとして受け取ったと思う。

「……いいなぁ」

 その“いいな”は、一体誰に向けて言っているんだ。オレさまの向こうに居るダンデに向かってか。

 なまえはいつもダンデを見ている。ダンデだけを。ただひたすらに真っ直ぐ。こちらが悲しくなるくらい懸命に。
 健気な姿を見ていると、どうしてもダンデのもとへ行かせたくなくて。本来ジムチャレンジはトレーナーを試す為に行う。素質ありと認めた者にはジムバッジを渡してもいい。そういう仕組みなのに、なまえを全力で潰している。

 だって、バッジを渡してしまったらなまえはオレさまを介してすらくれなくなるだろ? オレさまの向こうにいるダンデ――じゃなくて、ダンデそのものを見つめるんだ。……そんなの、オレさまが許すわけねぇだろ。

「なまえも強くなったな!」
「……どうもありがとう」
「あーもう。そんな暗いカオすんじゃねぇって」
「今年もキバナくんがダンデに挑戦するのかな」
「まぁ。それはそうだな!」
「……いいなぁ」

 オレさまが全力をかけて戦って、それでも危ない時だってあるくらいなまえも強いのに。なまえはそれではダメなのか。このまま一生オレさまとの勝負にもたついて、オレさまに囚われたまま生きていくか、ダンデを見つめるのを諦めるか。どちらか選んでくれねぇか。

 出来ることなら後者であって欲しい。

「……でも。今回のチャンピオンカップは一味違うと思うぜ」
「ん?」

 なまえと向き合うには窮屈なカフェテーブル。ユウリの名前を出したらなまえは傷付くのだろう。それでも、告げずにはいられない。己のエゴをコーヒーカップで隠しながら、期待の新人トレーナーの名前を出すと案の定なまえの目線は下に落ちた。

「女の子、なんだ?」
「あぁ。ホップのこともあって、ちょくちょくダンデと絡みあるっぽいぞ」
「……へぇ」
「ユウリはめちゃくちゃ強ぇからなぁ。ちょっとだけダンデとの試合を観てみたい気もする」
「……ダンデ、喜ぶだろうね」
「あぁ。ダンデは勝負が大好きだからなぁ」
「……ほんとにね」

 なまえはダンデのことが大好きなのにな。女とも呼べない少女相手にここまで落ち込めるもんかね。なまえの真っ直ぐさは傍から見ていると少し痛々しい。でもそれ以上に、その真っ直ぐな瞳が自分に向かないことのが痛い。

「レッツ! チャンピオンタイム!」

 街の大型ビジョンに映し出されたダンデは何も知らず、猛々しい様子でお決まりのポーズを決めている。だけど、なまえの目線を上げるのはやっぱりこの男で。

「ダンデは本当に凄いんだなぁ……」

 なぁなまえ。お前が見てくれないんだったら、この気持ちはどこにやったらいい? オレさま1人じゃ持て余すこの気持ちを、1人で一体どうしろと? この気持ちを受け取れるのは、なまえしか居ねぇんだぞ。

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