タンポポ

捏造設定

女主人公のデフォルト名出ます


 ダンデは私のライバルだ。そう言ったら笑う人だって居るかもしれない。なに言ってるの、ダンデのライバルはキバナでしょ? と正しい見方をする人だって居ると思う。

 だけど、ほんとうにそうなのだ。私のライバルはダンデ。一緒の時期にジムチャレンジをして、ダンデはチャンピオンへと駆け上がった。田舎者だった男は、今やガラルを沸かす大スター。片や私は未だにチャンピオンカップにも出れない、ただのトレーナー。

 ダンデの存在は時折どうしようもなく疎ましく思える。それでいて、眩しくて羨ましい。ライバルという意識から憧れへ。そこから恋心へと変わるのはそんなに珍しいことじゃない。……いや違う。私の中に、はじめから居たのは恋心の方だ。

「レッツ! チャンピオンタイム!」

 テレビや広告、至る所に現れるダンデを見つめてはあの頃を思い出す。ソニアと3人で励まし合ったあの頃。あの時はこんなにも道が別れるだなんて、知らなかった。もっと、私が強ければ。もっと、才能があれば。今頃、チャンピオンカップでダンデの前に立ててたのだろうか。……なんて。ジムリーダーにすら勝てない私が描くには空想が過ぎる。

「勝者、ジムリーダーキバナ!」
「よっしゃ! オレさまの勝ち!」
「……お疲れさま」

 あぁまたダメだった。こんなんじゃいつまで経ってもダンデのもとになんて行けない。ダンデは余りにも強すぎる。彼に振り向いてもらうには、同じ土俵に立たないといけないのに。自分をワクワクさせるようなトレーナーじゃないと、ダンデは私のことなんて見てくれない。

「なまえも強くなったな!」
「……どうもありがとう」
「あーもう。そんな暗いカオすんじゃねぇって」
「今年もキバナくんがダンデに挑戦するのかな」
「まぁ。それはそうだな!」
「……いいなぁ」

 バトル終わりに一緒にカフェでお茶をしている目の前の男。この男こそが私がどうしても倒せないジムリーダー。そして、ダンデ公認のライバル。ダンデに認めて貰ってるキバナくんが心底羨ましい。才能があるっていいな。

「……でも。今回のチャンピオンカップは一味違うと思うぜ」
「ん?」

 テーブルからはみ出した足を組み替え、コーヒーを啜るキバナくん。なんでも、ダンデが弟のホップと一緒に推薦状を渡した女の子が居るのだという。そして、その女の子はキバナくんをも倒し、チャンピオンカップの出場権を得ているらしい。

「女の子、なんだ?」
「あぁ。ホップのこともあって、ちょくちょくダンデと絡みあるっぽいぞ」
「……へぇ」
「ユウリはめちゃくちゃ強ぇからなぁ。ちょっとだけダンデとの試合を観てみたい気もする」
「……ダンデ、喜ぶだろうね」
「あぁ。ダンデは勝負が大好きだからなぁ」
「……ほんとにね」

 ホットコーヒーを流し込む。その熱さが喉を襲って、心がぼっと熱くなる。ホップと同じタイミングってことは、ホップと同じくらいの年齢なのだろう。そんな子相手に嫉妬するだなんて。大人気ないと分かっていても、抱く感情は熱くて黒い。

「オレさまも、うかうかしてらんねぇな。なまえ、応援頼むぞ」
「う、ん」

 私は一体ここでなにをしているんだろう。いつまでナックルシティで足止めを喰らっていれば気が済む? いっそのことソニアみたいに別の道に進めば良かった? 色んなことを考えてみるけれど、やっぱり私はダンデに見て欲しい。そうして今回もただのポケモントレーナーに甘んじるのだ。



 ダンデが負けた。相手はキバナくんでも他のジムリーダーでもない。あの日、キバナくんが言っていたユウリという幼い女性トレーナー。初めてのジムチャレンジで、全て一発でクリアしてきたという大物トレーナーだったらしい。

 ダンデが実家に戻るという報せを受け、アーマーガアに乗って駆け付けたハロンタウン。そこにはあの頃となにも変わらない雰囲気を纏ったダンデが居て。だけど、チャンピオン“だった”頃のオーラが抜けきらない、私の知らない雰囲気を携えていた。

「おぉ。なまえ! 久しぶり」
「……うん」

 ひさしぶり、か。本当、久しぶり。どうしてだろう。ダンデに会いたくて、ずっとジムチャレンジをしてたハズなのに。全然嬉しくない。こんな所で会ったって、嬉しくない。

「これからどうするの?」
「実は、ポケモンリーグ委員長の話が来ているんだ」
「ローズさん自首したんだっけ」
「あぁ。そういうワケで、俺はこれからも忙しい毎日を送る予定だ!」
「そっか」
「なまえは? またジムチャレンジするのか?」
「……どうしようかな。ダンデもチャンピオンじゃなくなったし」
「? なまえはチャンピオンになりたいんじゃないのか?」
「違うよ。……そうじゃない」
「ならどうして?」
「んー……分かんない」
「はは。まぁ理由なんてなくても、バトルは楽しいしな」

 豪快に笑った後、「俺もたまにはチャンピオンカップに挑戦するつもりだ。なまえとバトル、出来ると嬉しいな」なんて言うから。また私は淡い期待を抱いてしまうのだ。

 もういい加減解放して欲しいとすら思っているのに。何の気なしに言った言葉にさえこんなにも踊らされて。

 もし、ダンデと戦えるくらい強くなれたら。

「タワーの件も進めつつ、ユウリに勝つ為の特訓もしないとだな。あ、なまえ。俺とユウリのバトル観たか? ユウリの戦い方、凄く面白くて――」

 ユウリ、ユウリ、ユウリ。ダンデの頭を埋め尽くすあの女の子になれるのかな?

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